- 2008-06-18
- 小説 神様のロトリー
「それは1994年、11月のある日のこと。ポーランド西部、ドイツとの国境に近いガラセクという町に住むスモラレク・ボルツという名の男性に起きた…………」
サキさんはテレビの画面を眼を大きく見開きながら見ていた。
その話はヨーロッパのポーランドという国で起きた実際の話。
22歳のボルツは仕事場からの帰宅途中、突然、数人の男たちに取り囲まれ、暴行を受けてしまう。彼の容態は酷く、幸い命は取り留めたものの、意識は回復せず、そのまま長い月日が流れた。多くの人は彼の意識はもう戻らないと考えていたが、暴行事件から約2年、彼は突然目を覚ます。
その裏には、彼の家族による懸命な努力があった。
事件から数ヶ月が経った頃、彼の家族は医師から彼の意識に回復の見込みは無いと宣告された。
だが、彼の家族はそのことを信じなかった。
彼の家族は少しでも彼に生きる気持ちを持たせるために、また、絶対に彼の意識を取り戻すために、様々なことをしたという。
毎日のように病院に通い、彼に話しかけ続けた。
彼の好きな音楽を聴かせた。
彼の好きな匂いを嗅がせた。
彼の手足をマッサージし続けた。
要するに、刺激を与え続けたというのだ。
本来ならば、人間の脳は意識不明が3ヶ月以上続くと、徐々に活動を弱めていってしまうと言われている。専門家は、彼の家族の努力が、彼の脳の活動を弱らせることなく、保たせ続けたのではないかと推測した。
ボルツは現在、何不自由なく日常生活を送っているという。
「それでは今日のアンビリーバブーはここまで〜!来週またお会いしましょう!さよーなら〜〜!!」
「……………………………………よしっ!」
サキさんは決心し、携帯電話を取り、部活の後輩に電話を掛けた。
プルルルルル プルルルルル プルル ガチャッ
「あ、もしもし?春樹?佐々木だけど……おう、久し振り。あのさ…春樹、今アンビリーバブー見た?………あ、見てたんだ。なら話が早いや………あのな、悪いんだが…………」
「んじゃあ次、後衛の3本打ちね!はーい、早く前衛と後衛で分かれてー!」
俺の名前は宮崎春樹。
K大学ソフトテニス部部長。
そして、現在部活中。
「最初がクロスで、次逆クロで、最後がトップ打ち!最後は前衛に向かって打てよー!じゃ、始めるぞー!」
部長というのは大変だ。
みんなをまとめなきゃいけないし、後輩には教えないといけないし。
それに、なんだか部長としてのプレッシャーってヤツ?それが重い。
「あー惜しいな!でも良いよ白石!たぶん次は入るぞ!」
直哉さんから部長を引き継ぎ、はや半年。
最初は無事できるのか不安だったけど、まぁ、やればなんとかなるもんで。
任期は残り半年、このまま次の引き継ぎまで、がんばっていこう。
「あー、加奈ちゃん!サーブはもっとできるだけ高い位置から打ったほうがいいよ!その方が入る確立高いから」
昨日、直哉さんの彼女さんがテレビに出ていた。そのたくましい姿に鳥肌が立った。
そして、その次の番組にも、俺は目を奪われた。
ポーランドで起きたという実際の話。
あの話を直哉さんにかさねて見ていた人は、俺だけじゃないはずだ。
「んじゃ、次最後は試合ね!最初こっちのコートは俺・篠原と…あー、本山・宏平で!反対側のコートは女子ね!」
昨日、その番組が終わったあと、サキさんから電話があった。
サキさんも俺と同じコトを考えていた。
果たして、皆が賛成してくれるかどうか…
「んじゃ集合―!」
部活終了の時間となり、春樹の号令でみんなが輪になって集まった。
「えー、それではこれで本日の練習は終わります………が、その前にみんなに一つお願い…というか、提案したいことがあります」
「……………………」
あれ…?なぜだろう…いつもなら「えーなんすかぁ」とか「もしかして金貸してくれとかですか!?」とかふざけたリアクションが返ってくるのに、みんな静かだ。
「えーっと…現1年生はまだ会ったことない人もいると思いますが…この部活の4年に木下直哉さんという先輩がいます。たぶん、一年も誰かしらから聞いたことはあると思うけど…今、静岡の病院に入院してます。もう、4ヶ月ほど意識が戻っていません」
「………………………」
やけに静かだ……もしかして……
「それで…この中で昨日、アンビリーバブー見た人いますか?いたら手を挙げて下さい」
一人、また一人と手を挙げ、なんと最終的にはほぼすべての人が手を挙げた。
やっぱり…みんなも見てたんだ…
「おぉ…みんなも見てたんだ。それなら、もう俺が言いたいこと…分かったかもね。俺たち…この部活のみんなで、昨日の番組と同じコトを、直哉さんにしてあげようと思うんだけど……みんなはどうですか?……もちろん、病院はここから遠いし、電車賃も往復で1000円くらい掛かっちゃうから、無理にとは言いません。志願する人だけで、交代交代でしていこうと思うんだけど……」
「……………………」
誰も口を開かない。やはり、ちょっと無理があったか……
「もちろん、それで直哉さんの意識が戻るっていう保障はどこにもない。けど、俺たちすごいお世話になったじゃんか。俺たちは直哉さんだけではなく、智美さんのためにもやるべきだと思…」
「ちょっといいですか?」
突然、2年の本山が話の途中で割って入ってきた。
「お、おう。どうした本山…?」
「…ていうか春樹さん、もうみんな決めてますよ?」
本山は微笑みながら、そう言った。
「…え?」
春樹はきょとんとしている。
「練習始まる前に2年で集まってそれ話したんですよ。どうすれば俺たちでできるかなって。んで思ったんですけど、この部活車持ってる人5人もいるじゃないですか?車で行けば電車より全然安く行けるし、まぁちょっと行くのに時間掛かるけど。さっき良太(一年)にも聞いたら車出してくれるって言ってたんで、春樹さん、その方が良くないですか?」
「あ……ま、確かにそうだけど…………ていうか、みんな…いつのまに…?」
「部活終わったら先輩達に話そうって俺たちも思ってたんですよ」
本山はそう答えた。
「ていうか、やるなら直哉さんのゼミの友達にも話したほうが良くないですか?できるだけ多くの人でした方が…車もあるかもしれないし」
1年の篠原がそう言った。
「それなら直哉さんの地元の友達も入れたほうがいいよね?直哉さんの親御さんに説明すればたぶん連絡先教えてくれるんじゃない?」
3年の明美がそう言った。
「あ、あたし今度のTOMOMIさんのデビューシングル買おうって思ってるんですよ。持ってって聞かせましょ!」
2年の慶子がそう言った。
「あとなんだろ、直哉さんの好きな匂いって……なんだ?」
2年の小崎がそう言った。
「あ、テニスボールの匂いとか嗅がせてみるのはどう…」
さっきまで静かだったテニスコートが一転、皆が一人の先輩を助けるための作戦作りを騒々しく始めた。結果は…無論、全員参加!
…………こいつら……ふふ、
「お前ら、最高だ」
春樹は、微笑みながらそうつぶやいた。
サキさんはテレビの画面を眼を大きく見開きながら見ていた。
その話はヨーロッパのポーランドという国で起きた実際の話。
22歳のボルツは仕事場からの帰宅途中、突然、数人の男たちに取り囲まれ、暴行を受けてしまう。彼の容態は酷く、幸い命は取り留めたものの、意識は回復せず、そのまま長い月日が流れた。多くの人は彼の意識はもう戻らないと考えていたが、暴行事件から約2年、彼は突然目を覚ます。
その裏には、彼の家族による懸命な努力があった。
事件から数ヶ月が経った頃、彼の家族は医師から彼の意識に回復の見込みは無いと宣告された。
だが、彼の家族はそのことを信じなかった。
彼の家族は少しでも彼に生きる気持ちを持たせるために、また、絶対に彼の意識を取り戻すために、様々なことをしたという。
毎日のように病院に通い、彼に話しかけ続けた。
彼の好きな音楽を聴かせた。
彼の好きな匂いを嗅がせた。
彼の手足をマッサージし続けた。
要するに、刺激を与え続けたというのだ。
本来ならば、人間の脳は意識不明が3ヶ月以上続くと、徐々に活動を弱めていってしまうと言われている。専門家は、彼の家族の努力が、彼の脳の活動を弱らせることなく、保たせ続けたのではないかと推測した。
ボルツは現在、何不自由なく日常生活を送っているという。
「それでは今日のアンビリーバブーはここまで〜!来週またお会いしましょう!さよーなら〜〜!!」
「……………………………………よしっ!」
サキさんは決心し、携帯電話を取り、部活の後輩に電話を掛けた。
プルルルルル プルルルルル プルル ガチャッ
「あ、もしもし?春樹?佐々木だけど……おう、久し振り。あのさ…春樹、今アンビリーバブー見た?………あ、見てたんだ。なら話が早いや………あのな、悪いんだが…………」
「んじゃあ次、後衛の3本打ちね!はーい、早く前衛と後衛で分かれてー!」
俺の名前は宮崎春樹。
K大学ソフトテニス部部長。
そして、現在部活中。
「最初がクロスで、次逆クロで、最後がトップ打ち!最後は前衛に向かって打てよー!じゃ、始めるぞー!」
部長というのは大変だ。
みんなをまとめなきゃいけないし、後輩には教えないといけないし。
それに、なんだか部長としてのプレッシャーってヤツ?それが重い。
「あー惜しいな!でも良いよ白石!たぶん次は入るぞ!」
直哉さんから部長を引き継ぎ、はや半年。
最初は無事できるのか不安だったけど、まぁ、やればなんとかなるもんで。
任期は残り半年、このまま次の引き継ぎまで、がんばっていこう。
「あー、加奈ちゃん!サーブはもっとできるだけ高い位置から打ったほうがいいよ!その方が入る確立高いから」
昨日、直哉さんの彼女さんがテレビに出ていた。そのたくましい姿に鳥肌が立った。
そして、その次の番組にも、俺は目を奪われた。
ポーランドで起きたという実際の話。
あの話を直哉さんにかさねて見ていた人は、俺だけじゃないはずだ。
「んじゃ、次最後は試合ね!最初こっちのコートは俺・篠原と…あー、本山・宏平で!反対側のコートは女子ね!」
昨日、その番組が終わったあと、サキさんから電話があった。
サキさんも俺と同じコトを考えていた。
果たして、皆が賛成してくれるかどうか…
「んじゃ集合―!」
部活終了の時間となり、春樹の号令でみんなが輪になって集まった。
「えー、それではこれで本日の練習は終わります………が、その前にみんなに一つお願い…というか、提案したいことがあります」
「……………………」
あれ…?なぜだろう…いつもなら「えーなんすかぁ」とか「もしかして金貸してくれとかですか!?」とかふざけたリアクションが返ってくるのに、みんな静かだ。
「えーっと…現1年生はまだ会ったことない人もいると思いますが…この部活の4年に木下直哉さんという先輩がいます。たぶん、一年も誰かしらから聞いたことはあると思うけど…今、静岡の病院に入院してます。もう、4ヶ月ほど意識が戻っていません」
「………………………」
やけに静かだ……もしかして……
「それで…この中で昨日、アンビリーバブー見た人いますか?いたら手を挙げて下さい」
一人、また一人と手を挙げ、なんと最終的にはほぼすべての人が手を挙げた。
やっぱり…みんなも見てたんだ…
「おぉ…みんなも見てたんだ。それなら、もう俺が言いたいこと…分かったかもね。俺たち…この部活のみんなで、昨日の番組と同じコトを、直哉さんにしてあげようと思うんだけど……みんなはどうですか?……もちろん、病院はここから遠いし、電車賃も往復で1000円くらい掛かっちゃうから、無理にとは言いません。志願する人だけで、交代交代でしていこうと思うんだけど……」
「……………………」
誰も口を開かない。やはり、ちょっと無理があったか……
「もちろん、それで直哉さんの意識が戻るっていう保障はどこにもない。けど、俺たちすごいお世話になったじゃんか。俺たちは直哉さんだけではなく、智美さんのためにもやるべきだと思…」
「ちょっといいですか?」
突然、2年の本山が話の途中で割って入ってきた。
「お、おう。どうした本山…?」
「…ていうか春樹さん、もうみんな決めてますよ?」
本山は微笑みながら、そう言った。
「…え?」
春樹はきょとんとしている。
「練習始まる前に2年で集まってそれ話したんですよ。どうすれば俺たちでできるかなって。んで思ったんですけど、この部活車持ってる人5人もいるじゃないですか?車で行けば電車より全然安く行けるし、まぁちょっと行くのに時間掛かるけど。さっき良太(一年)にも聞いたら車出してくれるって言ってたんで、春樹さん、その方が良くないですか?」
「あ……ま、確かにそうだけど…………ていうか、みんな…いつのまに…?」
「部活終わったら先輩達に話そうって俺たちも思ってたんですよ」
本山はそう答えた。
「ていうか、やるなら直哉さんのゼミの友達にも話したほうが良くないですか?できるだけ多くの人でした方が…車もあるかもしれないし」
1年の篠原がそう言った。
「それなら直哉さんの地元の友達も入れたほうがいいよね?直哉さんの親御さんに説明すればたぶん連絡先教えてくれるんじゃない?」
3年の明美がそう言った。
「あ、あたし今度のTOMOMIさんのデビューシングル買おうって思ってるんですよ。持ってって聞かせましょ!」
2年の慶子がそう言った。
「あとなんだろ、直哉さんの好きな匂いって……なんだ?」
2年の小崎がそう言った。
「あ、テニスボールの匂いとか嗅がせてみるのはどう…」
さっきまで静かだったテニスコートが一転、皆が一人の先輩を助けるための作戦作りを騒々しく始めた。結果は…無論、全員参加!
…………こいつら……ふふ、
「お前ら、最高だ」
春樹は、微笑みながらそうつぶやいた。
Comments:4
- 奏 URL 2008-06-19 (木) 00:20
直哉の仲間達の温かさにじわーっと^^
これだけみんなが、そして智ちゃんもご家族の方も心配していると♪
直哉の回復が待ち遠しい限りです^^
でも・・直哉を通してみんなの絆が深まったのでは、とも♪
直哉が繋ぐ心と心か・・
次回もとても楽しみにしておりますゞ(≧∀≦)/
いつも拝読させて頂いてありがとうです^^- アルマーク URL 2008-06-19 (木) 23:53
奏さん、こんばんは!
コメントありがとうゴザイマス!
ポーランドとかボルツとか、その辺の設定は適当ですけど、このエピソードは本当に起きたコトなんです。人間の体って不思議ですよね。
果たしてこれから直哉はどうなるのか?続きもよろしくお願いします!
いつも本当にご購読ありがとうございます!- 藍色イチゴ URL 2008-06-22 (日) 22:35
こんばんわ、藍色イチゴです。
直哉君、目を覚ましてくれるといいですね。
人の身体って不思議ですよね。絶対に駄目だと匙を投げられた人が、日常生活を不自由なく過ごせるようになっているのですから。
次回の話、楽しみに待っていますね。
それでは、また。
- アルマーク URL 2008-06-24 (火) 21:58
藍色イチゴさん、こんばんは!
コメント有難うゴザイマス!
そうですよね。絶対に駄目だと言われても、それを信じる信じないはまた別の話ですよね。「絶対」なんて本当はないのかもしれないですね。
これからもヨロシクお願いします!
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