- 2008-06-05
- 小説 神様のロトリー
智美が乗った車椅子を、牧野が押していく。
ゆっくりと、智美は直哉のいる病室に近づいてゆく。
あぁ…なんでだろう、直哉に会える日をあれほど心待ちにしていたはずなのに、心にプレッシャーを感じる…なんだろうこの気持ち…罪悪感…?…ははは、たぶんそうだろな。なんで今更…でも、当たり前か…
やがて、智美が乗った車椅子はある部屋の前で止まった。
その部屋のドアの横の壁には、「木下直哉」と書かれたプレートが掛けられている。
「ここです」
「…………はい」
ここに…直哉が…
智美は心臓の鼓動が、どんどん早くなってゆくのを感じた。
ガララララー…
牧野は部屋のドアを開け、そして智美の乗っている車椅子を押して、病室内へと入った。
「………直哉……」
智美が見た直哉は、頭に包帯を幾重にも巻かれていて、その姿は見ていて少し痛々しいけれども、表情はとても穏やかで、いつも智美が見る寝ているときの直哉の顔そのものだった。
傷が痛くて苦しいなどの感情は一切表情にでていない。どちらかと言えば、なぜか満足そうな微笑ましい表情をして、ただ、穏やかに直哉は眠っていた。
直哉!と呼べば、すぐにでも目を覚ましてくれそうな、そんな気がする。
牧野は智美が乗っている車椅子をベットの横につけた。
智美は、そっと直哉の頬に触れた。
暖かい…直哉の体温が暖かい…
「スー、スー」と直哉が呼吸をする音が聞こえる。
しっかりと…直哉はがんばって生きようとしている…良かった…
智美はそっと微笑んだ。
「本当に、彼は運の強い人間です」
そう、牧野が智美に向かって言った。
「運が強い…ですか?」
智美は牧野に聞き返した。
「はい。…本来なら、彼の怪我は脊髄や脳を傷つけて、体に障害が残ったとしてもおかしくない程の怪我でした。ところが、彼には脳や脊髄、また、主な筋肉、靭帯に全く損傷がない。事故の衝撃は、体の大切な場所をすり抜けた、本当にそう言えるんです。まるで何かに守られているとしか説明がつきません。私、これまで医者を10年してきましたが、このようなケースは初めてです。本当に、彼は運が強い」
脊髄や脳に…傷がない…?ということは…
「彼…ソフトテニスの選手なんです。また…前と同じように…彼はテニスができますか?」
智美は牧野の目を見ながら聞いた。
できることなら、直哉には前と同じように思いっきりソフトテニスをして欲しい。彼は本当にソフトテニスが好きだし、これからもしたいと願うはずだ。それに…セレクションの合格が…
牧野はニコっと微笑み、智美の質問に答えた。
「大丈夫ですよ。恐らく、ある程度のリハビリは必要になると思いますが…体に障害は残りません。運動能力は、以前と同じまでに回復するでしょう」
「…へへ、だってさ、直哉。良かったね。またソフトテニスできるよ」
そう言いながら、智美は直哉の頬を指で突っついた。
そんな智美の様子を見た牧野は一つ頷き、智美の背後で一人で静かに微笑んだ。
「それでは私は他の患者の診察がありますので戻りますが…清田さんはまだここにいますか?」
「あ、はい。もう少しここにいます。一人で戻れるので大丈夫です」
「そうですか。分かりました。では、何かありましたらすぐそこにナースセンターがありますので、そちらの方に言っていただければ」
「はい、分かりました。本当にありがとうございました」
智美は牧野に向かって頭を下げた。
「いえいえ。それでは、私はこれで失礼します」
ガララララー ガチャッ
牧野は病室から出て行き、病室内は智美と直哉の二人きりとなった。
智美は直哉の右手を両手で握った。
「直哉…」
ねぇ、いつ目覚めるの…?
ふと、智美は直哉の右手の手のひらに、ザラザラしたものがあるのを感じた。
豆だ。
ソフトテニスの練習でできた豆。
右の手のひらの所々が、まるで硬いゴムのように固まっている。
…知らなかったな…そうか、いつも手を繋ぐときって、直哉の左手とあたしの右手だったしね…こんな右手してたんだ。
直哉の右手は、長年のソフトテニスの練習で、全体的に皮膚が硬く、腫れぼったくなっていた。
だから、いつもあたしと手を繋ぐときって、直哉は左手だったのかな…?いや、たまたまかな…。
トンッ トンッ
誰かがドアをノックした。
誰だろう?看護士かな?あ、もしかして、直哉の家族??だったら緊張するな…
「…はい。どうぞ」
ガラララー
「あ、すみません、お邪魔…ですか?」
「…あー、いえいえ、どうぞお入りください」
直哉の病室を訪れたのは、スーツ姿で、少し色黒で体格がしっかりした男の人だった。誰だろう…あまり顔は直哉に似ていないけれど、親戚の人だろうか。
「もしかして…あなたが清田智美さん…でしょうか?」
そのスーツ姿の男の人が、智美に尋ねてきた。
「はい。そうですが…あなたは?」
「あー、えっと私、こういう者です」
スーツ姿の男はスーツの内ポケットから名刺を取り出し、智美に差し出した。
「あ…はい」
智美は名刺を受け取り、目を通した。
そこには書かれていたのは
「株式会社ヨネクッス ソフトテニス商品開発部・新人採用担当 相川秀樹」(第6・9話参照)
ゆっくりと、智美は直哉のいる病室に近づいてゆく。
あぁ…なんでだろう、直哉に会える日をあれほど心待ちにしていたはずなのに、心にプレッシャーを感じる…なんだろうこの気持ち…罪悪感…?…ははは、たぶんそうだろな。なんで今更…でも、当たり前か…
やがて、智美が乗った車椅子はある部屋の前で止まった。
その部屋のドアの横の壁には、「木下直哉」と書かれたプレートが掛けられている。
「ここです」
「…………はい」
ここに…直哉が…
智美は心臓の鼓動が、どんどん早くなってゆくのを感じた。
ガララララー…
牧野は部屋のドアを開け、そして智美の乗っている車椅子を押して、病室内へと入った。
「………直哉……」
智美が見た直哉は、頭に包帯を幾重にも巻かれていて、その姿は見ていて少し痛々しいけれども、表情はとても穏やかで、いつも智美が見る寝ているときの直哉の顔そのものだった。
傷が痛くて苦しいなどの感情は一切表情にでていない。どちらかと言えば、なぜか満足そうな微笑ましい表情をして、ただ、穏やかに直哉は眠っていた。
直哉!と呼べば、すぐにでも目を覚ましてくれそうな、そんな気がする。
牧野は智美が乗っている車椅子をベットの横につけた。
智美は、そっと直哉の頬に触れた。
暖かい…直哉の体温が暖かい…
「スー、スー」と直哉が呼吸をする音が聞こえる。
しっかりと…直哉はがんばって生きようとしている…良かった…
智美はそっと微笑んだ。
「本当に、彼は運の強い人間です」
そう、牧野が智美に向かって言った。
「運が強い…ですか?」
智美は牧野に聞き返した。
「はい。…本来なら、彼の怪我は脊髄や脳を傷つけて、体に障害が残ったとしてもおかしくない程の怪我でした。ところが、彼には脳や脊髄、また、主な筋肉、靭帯に全く損傷がない。事故の衝撃は、体の大切な場所をすり抜けた、本当にそう言えるんです。まるで何かに守られているとしか説明がつきません。私、これまで医者を10年してきましたが、このようなケースは初めてです。本当に、彼は運が強い」
脊髄や脳に…傷がない…?ということは…
「彼…ソフトテニスの選手なんです。また…前と同じように…彼はテニスができますか?」
智美は牧野の目を見ながら聞いた。
できることなら、直哉には前と同じように思いっきりソフトテニスをして欲しい。彼は本当にソフトテニスが好きだし、これからもしたいと願うはずだ。それに…セレクションの合格が…
牧野はニコっと微笑み、智美の質問に答えた。
「大丈夫ですよ。恐らく、ある程度のリハビリは必要になると思いますが…体に障害は残りません。運動能力は、以前と同じまでに回復するでしょう」
「…へへ、だってさ、直哉。良かったね。またソフトテニスできるよ」
そう言いながら、智美は直哉の頬を指で突っついた。
そんな智美の様子を見た牧野は一つ頷き、智美の背後で一人で静かに微笑んだ。
「それでは私は他の患者の診察がありますので戻りますが…清田さんはまだここにいますか?」
「あ、はい。もう少しここにいます。一人で戻れるので大丈夫です」
「そうですか。分かりました。では、何かありましたらすぐそこにナースセンターがありますので、そちらの方に言っていただければ」
「はい、分かりました。本当にありがとうございました」
智美は牧野に向かって頭を下げた。
「いえいえ。それでは、私はこれで失礼します」
ガララララー ガチャッ
牧野は病室から出て行き、病室内は智美と直哉の二人きりとなった。
智美は直哉の右手を両手で握った。
「直哉…」
ねぇ、いつ目覚めるの…?
ふと、智美は直哉の右手の手のひらに、ザラザラしたものがあるのを感じた。
豆だ。
ソフトテニスの練習でできた豆。
右の手のひらの所々が、まるで硬いゴムのように固まっている。
…知らなかったな…そうか、いつも手を繋ぐときって、直哉の左手とあたしの右手だったしね…こんな右手してたんだ。
直哉の右手は、長年のソフトテニスの練習で、全体的に皮膚が硬く、腫れぼったくなっていた。
だから、いつもあたしと手を繋ぐときって、直哉は左手だったのかな…?いや、たまたまかな…。
トンッ トンッ
誰かがドアをノックした。
誰だろう?看護士かな?あ、もしかして、直哉の家族??だったら緊張するな…
「…はい。どうぞ」
ガラララー
「あ、すみません、お邪魔…ですか?」
「…あー、いえいえ、どうぞお入りください」
直哉の病室を訪れたのは、スーツ姿で、少し色黒で体格がしっかりした男の人だった。誰だろう…あまり顔は直哉に似ていないけれど、親戚の人だろうか。
「もしかして…あなたが清田智美さん…でしょうか?」
そのスーツ姿の男の人が、智美に尋ねてきた。
「はい。そうですが…あなたは?」
「あー、えっと私、こういう者です」
スーツ姿の男はスーツの内ポケットから名刺を取り出し、智美に差し出した。
「あ…はい」
智美は名刺を受け取り、目を通した。
そこには書かれていたのは
「株式会社ヨネクッス ソフトテニス商品開発部・新人採用担当 相川秀樹」(第6・9話参照)
Comments:2
- 奏 URL 2008-06-06 (金) 00:03
良かったですね(涙
後は意識回復のみで^^
直哉は今、何処に行っているのかなと・・生きる事こそ智ちゃんを守ることで、智ちゃんはこんなにも自分を責めているのだから・・。
そして智ちゃん、こんな辛い思いをしているのだったら・・きっと前よりも、もっと人の心を揺さぶる様な素敵な歌が歌えるんじゃないかって^^
続きをとても楽しみにしてますっゞ(≧∀≦)/- アルマーク URL 2008-06-07 (土) 01:04
奏さん、こんばんは!
コメントほんとにありがとうございます!
そうですね。確かに苦しい経験があればあるほど、その分良い唄がつくれると思います。
果たして直哉はいつ目を覚ますのか?
そして、智美はこれからどうするのか?
などなど。
これからの展開に適当にご期待ください
