::#29 4月1日
「課長、先日のスカイラインで起きた事故の報告書を作りました」
「はい、見せて」
部下は課長に書類を手渡した。

「えーーと、…」
課長は、渡された書類を読み始めた。



(2)事故過程
3月27日
午前8時〜午前11時頃
強盗殺人容疑で指名手配中だった石田克彦(36歳 住所不定)は、静岡県西伊豆町高田にある株式会社同和物産社長・岡本仁の別荘宅に留守を見計らい侵入、ガレージに置かれていたフェラーリ360モデナを盗み逃走。

午後1時40分頃
石田克彦は盗んだフェラーリ360モデナで静岡県上伊豆市の北伊豆スカイラインを走行中、スピード超過(道路に残されたブレーキ痕により、速度は110〜130kmだったものと推測される)によりスリップを起こし、反対車線側のガードレールに接触、横転。反動で道路上を転がり、笠松展望駐車場に駐車していた木下直哉(21歳 大学生 神奈川県小田原市)と清田智美(21歳 大学生 神奈川県小田原市)の男女二名を乗せた日産cubeに衝突。更に衝突により軌道を変えたフェラーリ360モデナは柵を乗り越え、約70m崖の下へ転落。炎上。

午後1時53分
ツーリング中、現場を通りかかった東京都葛飾区会社員・田中正樹により、110番通報。

午後1時55分頃
ガソリンが漏れ出していたため、田中正樹とその会社同僚3名が日産cube車中より木下直哉と清田智美を救出。

午後2時18分
木下直哉と清田智美を救急車へ搬入。搬送。

午後2時41分
救急車が伊豆総合病院に到着。

午後3時10分
崖下へ転落したフェラーリ360モデナの車中より男性1名の遺体を発見。
遺留品により、石田克彦と判明。

午後5時30分
フェラーリ360モデナが盗難車と判明。



(6)負傷者

石田克彦(被疑者) 死亡
○死亡原因
全身の強度の打撲、また重度の火傷により死亡。

木下直哉(被害者) 意識不明の重体
肝臓破裂・胃内出血・右側頭部頭蓋骨陥没骨折・左第八肋骨骨折・左第九肋骨骨折・左第十肋骨骨折・全身の強度の打撲・5箇所の裂傷・7箇所の内出血(判明しているもののみ記載)
全治不明
4月1日13時現在 伊豆総合病院・集中治療室にて治療中

清田智美(被害者) 重症
左足脛骨亀裂骨折・左足打撲・左足2箇所内出血・右側頭部打撲
全治一ヶ月
4月1日13時現在、伊豆総合病院に入院中。来週、退院予定



「なるほど…気の毒にな…。よし、これでいいだろ。しまっておいてくれ」
課長は書類に不備がないことを確認し、部下に返した。

「課長、実はこの事件で二点ほど不思議な点があるのですが」
「ん?なんだ?」
「実は、今日病院で医師に被害者の負傷状況を尋ねた時に言っていたのですが、木下直哉は確かに怪我が酷く、意識不明のままなのですが…その…」
「おう、それで?」
「その…木下直哉はあれほどの怪我を負っておきながら、彼には脊髄や脳にはダメージが一切ないとの事なんです」
「……へぇ、それは不幸中の幸いだな」
「まぁ、そう言えばそうなのですが、医師が言うには、それはありえない事らしいのです」
「…え?どういうことだ?」
「医師が言うには、彼の損傷箇所からいって、一番ダメージを受けているはずの場所が脊髄や脳だったらしいのですが、しかし、そこには一切ダメージが見られないとの事なので、不思議だと言ってました」
「……なるほど…まぁ、奇跡…なんだろうな、それしかないよな。それで?もう一つは?」
「あ、はい。えー、被疑者の石田克彦の口の中からですね、桜の花びらが一枚、検出されました」
「…は?桜の花びら!?」
「はい、今日、県警の鑑識課からそういう連絡が入りました」
「なんだってそんなもんが口の中に…?うーん……まぁ、事故を起こしたときにガラスが割れ、その時に偶然、飛んでいた花びらが口の中に入り込んだ…としか考えられんな。食いモンじゃないし」
「どうしますか?この二つの件も報告書に書いておくべきですか?」
「…………………いや、書かなくていいよ。大したことではない」
「分かりました。では、失礼します」
部下は報告書をしまうため、隣の保管室へと向かった。

口の中に桜の花びら…変なこともあるもんだ。………………ん?待てよ?そういえば、あの時期はまだ、上伊豆スカイライン付近の桜は開花していなかったはず……じゃあ、どういうことだ…?…………ま、いっか。
いずれにせよ、大した事ではない。そう思い、課長はこれ以上考えることを止めた。




同じ頃…伊豆総合病院、外科病棟2階・215号室。

「でも良かったよー。思ったより智美元気でさ」
「へへ、この通り大丈夫だよ。心配かけてごめんね」

入院している智美の下に、ゼミの友達である洋子と隆弘が見舞いにやってきた。
彼らは智美と直哉が所属している香川ゼミの同期で、ラブラブのカップルだ。

「智美にね、早く元気になってもらおうって思ってさ、智美の大好物買って来たよ」
「え?それってもしかして…」
「ふふふ…じゃじゃ〜〜〜ん!!」

洋子はカバンの中から、智美の大好物である都まんじゅうを取り出した。

「あ〜〜〜〜〜!!都まんじゅ〜〜〜!!ありがとーー!」
智美は満面の笑顔でお礼を言った。
「ホント智美このまんじゅう好きだよねー!暇があるとさ、いっつもパクパク食べてるよね」
「えー?そんな事ないよー(嘘)。でもほんとありがとー!病院のご飯がね、ほんっとマズくてさー。マジで食べたかったんですよこれが!!」
「ふふふ。食べ過ぎると太るから、一気に食べないように」
「了解シマシタ」

左足はギブスで固定されているが、それ以外は特に怪我はない。思ったより明るく振舞う智美の様子に、少し洋子は安心した。

「それじゃー智美ちゃん、俺たち今日はこの辺で帰るね。ゆっくり休んで」
「うん、遠いのに来てくれてありがとね」
「俺たちダチだろ?気にすんなよ」
「そうだね」
「じゃあね、智美」
「うん、洋子またね」

お互いに手を振りながら、洋子は静かに病室のドアを閉めた。

「さて…中央病棟の…3階…だった…よね」
「おう…行くか…」

洋子と隆弘は一つ大きく深呼吸をし、外科病棟の隣にある中央病棟の3階へと向かった。

「えっと……あ…」
集中治療室の窓越しに現れたのは、人工呼吸器をつけ、頭に包帯を巻き、そして、何も動かない直哉の姿だった。
木下直哉と書かれたプレートがベッド横の壁に掛けられているが、本当にこの人があの直哉なのかと、疑いたくなる。

「直哉……………………」
隆弘は首を横に振った。自分の目の前に広がる景色を、受け入れたくない。

「……………………うぅ…」
直哉の変わり果てた姿を見て、洋子は泣き出し、その場に座り込んでしまった。
隆弘は洋子の体をそっと抱き起こし、そばにあるベンチにそっと座らせた。

「うううぅ……直哉……なんで……」
洋子は泣き止らない。そっと隆弘は洋子を抱きしめた。

洋子は思った。
智美……さっきのあの態度は…強がり…なんだよね…?…一番ツライのは…あなたのはずでしょう…?



その夜…伊豆総合病院、外科病棟2階・215号室

一人ベッドの中…智美は泣いていた。
「うぅ……うううぅぅ…グスっ……直哉ぁ…なんであたしを…」

泣いても、泣いても、泣いても……涙が止まらない…。

あの日以来、泣かなかった夜はなかった。

智美が洋子たちに見せた態度は、精一杯の強がりだった。
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こんにちは^^ 気になったのでコメント残しました^^
よろしければ私のブログに遊びに来てください^^:
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サッカー小僧さん、こんちわ!
お勤めご苦労さまです!

イスタンブールの奇跡は自分も興奮しました。
「諦めたら、そこで試合終了だよ。」という安西監督の言葉の大切さが実証された試合ですよね。
サッカー小僧さんが本当の逆転ゴールを決める日を心よりお待ちしてます!
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智美ちゃんが痛々しく・・辛いですね><
そしてあまりにも凄過ぎる事故に・・
でも直哉の脳と脊髄に損傷が無いのが本当に・・よかったです((´∀`*)/
早く二人とも、良くなります様にっ!!
続きを楽しみにしています^^
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奏さん、こんばんは!
いつもコメントありがとうゴザイマス!

智美のつらさが伝わったようで良かったです!
果たして、これから二人はどうなってゆくのか?直哉の容態は?などなど。

これからもヨロシクお願いします!


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もしかして、あの桜の花びらと直哉君の脳と脊髄に損傷がないという奇跡と、何か関係があるのでしょうか?
智美さんの精一杯の強がりが伝わってくるようで、なんだか胸が痛いですね。
続き、楽しみに待っていますね。
それでは、また。
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藍色イチゴさん、こんばんは!
コメントありがとうございます!

桜の花びらと直哉の怪我の関係は、藍色イチゴさんのご想像にお任せしますi-236
強がりを描くのが難しくて、少し心配だったんですけど、なんとかできたみたいなんで良かったです!
これからもよろしくお願いします!
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