- 2008-05-03
- 小説 神様のロトリー
その音の正体が一体なんなのか、直哉はすぐに分かった。
智美の顔と助手席の間のわずかな隙間、その向こうにある助手席の窓ガラス越しに見えるのは、黄色いスポーツカーがガードレールに衝突し、横転する、まさにその瞬間。
あーあー、スピードの出しすぎかな…、ありゃ…
空中で一回転をしたそのスポーツカーは、道路上に叩きつけられ、更にまるで石が転がるように転がりはじめた。
!!
直哉は、自分の目を疑った。どんどんと、スポーツカーの姿が大きくなってゆく。まっすぐ、自分たちの車へと、向かっている。
智美は、まだ何が起きているのか分からない。その顔は直哉の方を向いている。
まずい、急いでドアを開け外へ…いや、間に合わない。自分だけなら出れるかもしれないが、智美が出る時間は残されていない。助手席側のドアからは出れない。まっすぐ、そこにスポーツカーが向かっているからだ。
ならば、エンジンを掛け、バックで回避…だめだ、時間が足りない。
その間にも、スポーツカーの姿は、どんどんと大きくなってゆく。もう、その姿は15メートルほどに迫っていた。
このまま当たれば、間違いなく助手席にいる智美が危ない。まだ、智美は自分に危険が迫っていることにすら、気付いていない。
一瞬だけ、直哉は智美の顔を見た。
………………守るしかない。俺が、智美を。
迷っているヒマはない。
おにぎりを持っている智美の右手を、直哉は左手で強引に力いっぱい運転席側に引っ張った。智美の右手からおにぎりはこぼれ落ち、智美の体は運転席のシートにもたれかかった。
続いて直哉は自らの体を上から覆いかぶさるように智美に抱きつき、自分を智美の盾へと化した。
助手席側から来るであろう衝撃に備え、できるだけその間のクッションになれるように直哉は智美に抱きついた。
これでいい…きっと、大丈夫。
直哉は意を決し、目を閉じた。
地面を転がるスポーツカーの音が、どんどん大きくなってくる。
直哉は、智美を強く抱きしめた。
「…直哉?」
グシャッ!!!!!!!!!!!
その瞬間、強烈な衝撃が直哉の全身を襲った。
痛いじゃない、どちらかといえば炎のように熱く、体の細胞が泣き喚く、そんな感覚。
がっ!!!う!!…………ははは、勘弁してくれ、まじで。
衝撃で車が少し浮き上がり、直哉は思わず智美の体を離してしまいそうになったが、エアバックが作動し、上手く直哉はまた智美を強く腕の中へ抱きしめた。
うっすらと黄色のスポーツカーが稜線から下へ落ちてゆくのが見えた。確か、かなりの傾斜だったはず。向こうの運転手は助からないかもな。ホント、とんだ迷惑だ。
少し浮き上がった直哉たちが乗った車は、横転することも無く、そのまま地面へと着地した。だが、その車の助手席側は大きくえぐれ、車体の前半分は原型をとどめてはいなかった。
「う…」
なぜだろう、あまり痛みは感じない。だが、その代わり、体が非常に寒い。ガタガタと震える。
「とも…み…?」
次第に薄れてゆく意識の中、直哉は智美の名前を呼んだ。
だが、返事はない。
「……」
直哉は智美の顔に触れた。
「う…」
良かった。ちゃんと息をしている。衝撃で、気を失っただけなようだ。特に外傷は見当たらない。智美のかわいい顔にも、傷一つついていない。へへ…良かった。
「う…………ゲハッぁ!!」
ボチャボチャ…
直哉は、智美の服の上に、大量の血を吐いてしまった。
あーあ、智美のおにゅーのコート…血で汚しちまった…後で怒られちまうな…ていうか、この血の量…俺平気かな…はは、ちっとまずいかもな…。
直哉は、智美の頬をそっとなでて、そして、唇に触れた。
智美…そういや俺…恥ずかしくてまだ言ってなかった事あったよ…
「…とも…み……あいし……てる」
へへ、ちゃんと守ってやったぜ。感謝しろよ俺に。中々いないよ…こんな彼氏…って、なに言ってんだ俺…ん…なんか…ねみー……へ…へ。
バタッ
意識を失い、直哉は智美の体の上に倒れこんだ。
山に吹く冷たい風が、二人の体を静かに包み込んだ。
チャ チャーチャラチャーチャラチャーチャラチャ…♪
「ん……………?」
ガソリンの匂いが辺りを漂う中、壊れた車の中で音楽が鳴り、その音で智美は意識を取り戻した。だが、まだ頭がボーっとしている。今、自分に置かれている状況が理解できない。
あれ…なにが…?ガソリンの匂い……??臭い……
チャーチャラチャーチャラチャーチャラチャ…♪
あれ…この音楽…どっかで聴いたことが……
チャ チャーチャラチャーチャラチャーチャラチャ…♪
うるさいなぁ…あ、そうだ。この曲、ロッキーのテーマだ。ん?なんか、お腹が重い…
智美は目を開けて自分の腹部の上を見た。そこには、まったく動かない直哉の姿があった。
チャ チャーチャラチャーチャラチャーチャラチャ…♪
「あれ…直哉…?どうしたの…?」
チャ チャーチャラチャーチャラチャーチャラチャ…♪
よく聴くと、その音楽は直哉のポケット…つまり、直哉の携帯電話から聞こえていた。
その瞬間、智美は思い出した。この音楽は、直哉の合格を伝える電話だということを。
智美は必死に直哉の肩を揺さぶった。
「…ねぇ!直哉!!起きてよ!!!合格したんだよ!!起きなきゃ!!」
チャ チャーチャラチャーチャラチャーチャラチャ…♪
「直哉…!!!ねぇ…!!起きてよ…!電話に出ないと…!!」
チャ チャーチャラチャーチャラチャーチャラチャ…♪
痛いほど眩しい青空の下…ロッキーのテーマと智美の声だけが、むなしく空に響いていた。
智美の顔と助手席の間のわずかな隙間、その向こうにある助手席の窓ガラス越しに見えるのは、黄色いスポーツカーがガードレールに衝突し、横転する、まさにその瞬間。
あーあー、スピードの出しすぎかな…、ありゃ…
空中で一回転をしたそのスポーツカーは、道路上に叩きつけられ、更にまるで石が転がるように転がりはじめた。
!!
直哉は、自分の目を疑った。どんどんと、スポーツカーの姿が大きくなってゆく。まっすぐ、自分たちの車へと、向かっている。
智美は、まだ何が起きているのか分からない。その顔は直哉の方を向いている。
まずい、急いでドアを開け外へ…いや、間に合わない。自分だけなら出れるかもしれないが、智美が出る時間は残されていない。助手席側のドアからは出れない。まっすぐ、そこにスポーツカーが向かっているからだ。
ならば、エンジンを掛け、バックで回避…だめだ、時間が足りない。
その間にも、スポーツカーの姿は、どんどんと大きくなってゆく。もう、その姿は15メートルほどに迫っていた。
このまま当たれば、間違いなく助手席にいる智美が危ない。まだ、智美は自分に危険が迫っていることにすら、気付いていない。
一瞬だけ、直哉は智美の顔を見た。
………………守るしかない。俺が、智美を。
迷っているヒマはない。
おにぎりを持っている智美の右手を、直哉は左手で強引に力いっぱい運転席側に引っ張った。智美の右手からおにぎりはこぼれ落ち、智美の体は運転席のシートにもたれかかった。
続いて直哉は自らの体を上から覆いかぶさるように智美に抱きつき、自分を智美の盾へと化した。
助手席側から来るであろう衝撃に備え、できるだけその間のクッションになれるように直哉は智美に抱きついた。
これでいい…きっと、大丈夫。
直哉は意を決し、目を閉じた。
地面を転がるスポーツカーの音が、どんどん大きくなってくる。
直哉は、智美を強く抱きしめた。
「…直哉?」
グシャッ!!!!!!!!!!!
その瞬間、強烈な衝撃が直哉の全身を襲った。
痛いじゃない、どちらかといえば炎のように熱く、体の細胞が泣き喚く、そんな感覚。
がっ!!!う!!…………ははは、勘弁してくれ、まじで。
衝撃で車が少し浮き上がり、直哉は思わず智美の体を離してしまいそうになったが、エアバックが作動し、上手く直哉はまた智美を強く腕の中へ抱きしめた。
うっすらと黄色のスポーツカーが稜線から下へ落ちてゆくのが見えた。確か、かなりの傾斜だったはず。向こうの運転手は助からないかもな。ホント、とんだ迷惑だ。
少し浮き上がった直哉たちが乗った車は、横転することも無く、そのまま地面へと着地した。だが、その車の助手席側は大きくえぐれ、車体の前半分は原型をとどめてはいなかった。
「う…」
なぜだろう、あまり痛みは感じない。だが、その代わり、体が非常に寒い。ガタガタと震える。
「とも…み…?」
次第に薄れてゆく意識の中、直哉は智美の名前を呼んだ。
だが、返事はない。
「……」
直哉は智美の顔に触れた。
「う…」
良かった。ちゃんと息をしている。衝撃で、気を失っただけなようだ。特に外傷は見当たらない。智美のかわいい顔にも、傷一つついていない。へへ…良かった。
「う…………ゲハッぁ!!」
ボチャボチャ…
直哉は、智美の服の上に、大量の血を吐いてしまった。
あーあ、智美のおにゅーのコート…血で汚しちまった…後で怒られちまうな…ていうか、この血の量…俺平気かな…はは、ちっとまずいかもな…。
直哉は、智美の頬をそっとなでて、そして、唇に触れた。
智美…そういや俺…恥ずかしくてまだ言ってなかった事あったよ…
「…とも…み……あいし……てる」
へへ、ちゃんと守ってやったぜ。感謝しろよ俺に。中々いないよ…こんな彼氏…って、なに言ってんだ俺…ん…なんか…ねみー……へ…へ。
バタッ
意識を失い、直哉は智美の体の上に倒れこんだ。
山に吹く冷たい風が、二人の体を静かに包み込んだ。
チャ チャーチャラチャーチャラチャーチャラチャ…♪
「ん……………?」
ガソリンの匂いが辺りを漂う中、壊れた車の中で音楽が鳴り、その音で智美は意識を取り戻した。だが、まだ頭がボーっとしている。今、自分に置かれている状況が理解できない。
あれ…なにが…?ガソリンの匂い……??臭い……
チャーチャラチャーチャラチャーチャラチャ…♪
あれ…この音楽…どっかで聴いたことが……
チャ チャーチャラチャーチャラチャーチャラチャ…♪
うるさいなぁ…あ、そうだ。この曲、ロッキーのテーマだ。ん?なんか、お腹が重い…
智美は目を開けて自分の腹部の上を見た。そこには、まったく動かない直哉の姿があった。
チャ チャーチャラチャーチャラチャーチャラチャ…♪
「あれ…直哉…?どうしたの…?」
チャ チャーチャラチャーチャラチャーチャラチャ…♪
よく聴くと、その音楽は直哉のポケット…つまり、直哉の携帯電話から聞こえていた。
その瞬間、智美は思い出した。この音楽は、直哉の合格を伝える電話だということを。
智美は必死に直哉の肩を揺さぶった。
「…ねぇ!直哉!!起きてよ!!!合格したんだよ!!起きなきゃ!!」
チャ チャーチャラチャーチャラチャーチャラチャ…♪
「直哉…!!!ねぇ…!!起きてよ…!電話に出ないと…!!」
チャ チャーチャラチャーチャラチャーチャラチャ…♪
痛いほど眩しい青空の下…ロッキーのテーマと智美の声だけが、むなしく空に響いていた。
Comments:4
- 奏 URL 2008-05-03 (土) 23:46
苦しい試練ですね・・
二人にとっての本当の意味での愛の始まりなのではないかと♪
咄嗟に智美を守ろる事だけを考える直哉の心が眩しい程の青空と重なって見え^^
続きを楽しみにしてますっ!!- 藍色イチゴ URL 2008-05-04 (日) 13:45
あわわっ!
直哉君、しっかり!
は、早く、きゅ、救急車を!!
この後、どうなっていくのでしょうか?
次回の話が気になりますっ
それでは、また。- アルマーク URL 2008-05-04 (日) 21:51
奏さん、こんばんは!
コメントありがとうございます。
そうですね。もし今回の試練を乗り越えたれたら、二人の愛はもっと深まるかもしれません。
どこか悲しい感じの青空を想像していただけたら、ちゃんとイメージが伝わったと思うんで良かったです!
これからも宜しくお願いします!- アルマーク URL 2008-05-04 (日) 21:55
藍色イチゴさん、こんばんは!
コメントありがとございます。
果たして直哉の容態はいかに!?
その他いろいろ、これからの展開にご期待ください!
これからも宜しくお願いします!
