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200807
#47 神様のロトリー Another story 〜直哉編〜
- 2008-07-31 (Thu)
- 小説 神様のロトリー
直哉が目覚めてから8ヵ月後――――
2009年11月 東京都北区 国立スポーツ科学センター リハビリテーション室
一人の大柄で色黒な男が、顔中に汗を浮かべながらエアロサイクルをこいでいた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ!」
汗が顎から地面へポツリ、ポツリとたれ落ちる。
「はい、ラスト3km!もう少し!がんばれ!」
トレーナーの力強いゲキが室内に響く。
事故以前、67kgあった彼の体重は、意識が戻ったときには51kgまでに減少していた。
10日間に及ぶ精密検査の結果、幸い体には障害や視力低下、また心配された胃や肝機能の異常などは見られず、外見上では体がやせ細った以外に変化はなかったが、決してそれからの道のりは平坦ではなかった。
彼に課せられた最初のリハビリとは、「背もたれを必要とせず、椅子に座ること」だった。
いや、正確に言えば「背もたれのない椅子に座り続ける」というものだ。
一年もの間、ベッドの上で横になり続けていた彼の体は、まず、体を起こし続けるという事さえも忘れかけていたのだ。
背もたれがある椅子では、背もたれに体を預けていられるため楽に座れるのだが、体を預けることができない背もたれのない椅子では、上半身を自分の力で真っ直ぐに支え続けなければならない。
彼が最初に背もたれのない椅子に座り続けられた時間は、たったの16秒だった。
まず、耳の中にある体の平衡感覚を司る三半規管の機能を回復させるのに、3週間もの時間を要した。
続いては歩行訓練だ。
三半規管の回復により、立ち上がることはすぐにできた彼であったが、それと歩くことはまったくの別なコトだった。
軽いはずの体が重く、すぐに息が切れ、そして、よく躓いた。
なんども膝に大きな痣を作り、自分ひとりで安心して歩行が出来るようになるまで、更に一ヶ月もの時間がかかった。
担当医の許可を得て、ここでようやく退院をすることができた彼だったが、本格的な厳しいリハビリは、ここからが始まりだった。
ソフトテニスをするにあたり、彼が失ったものは非常に多い。
筋力。
持久力。
そして、経験という名の試合勘だ。
ヨネクッスの相川のサポートのもと、復帰に向けて最初に彼に課せられたトレーニングは、ランニングと自分の過去のソフトテニスの試合を収めたDVDを観ることだった。
十分な筋力が戻る前にラケットを振ってしまえば、変な癖が身についてしまう。そのため、まだラケットを振ることは許されなかった。
まず必要なことは、運動するために最低限必要な筋力と持久力をランニングで養い、そして、DVDを観て自分の体が失いかけている自分のプレイスタイルと試合勘を少しでも本格的なテニスの練習が始まる前に思い出さすということだった。
テニスにおいて、試合勘というものはテクニックや筋力と同等以上に大切なモノ。
ましてや彼は前衛の選手。
前衛の主な仕事は、相手の後衛が打つ球をネット際で返すポーチという動作。
試合の中でそのポーチをするかしないかを一瞬で判断するのは、ゲームの流れを読む経験という名の試合勘なのだ。
朝起きてまず5kmのランニング。そして昼食後にDVDを3時間見て、夕方にまた5kmのランニング。
彼は3ヶ月もの間、ひたすらその生活を繰り返した。
彼が目覚めてから5ヵ月後、季節は9月――――
彼は静岡の実家を離れ、東京へ出てきた。
東京都北区にある国立スポーツ科学センターにて、彼は泊り込みで復帰に向けた長期トレーニングを行うことになったのだ。
国立スポーツ科学センターとは、日本のトップアスリートのみが活動を許される日本スポーツ界の医・科学・情報の中枢機関である。彼は、日本ソフトテニス協会が指定する特別強化指定選手として、特別に合宿が許可された。
ヨネクッスや多くの優秀なトレーナーのもと、彼には事故以前の体を取り戻すため、的確で濃いトレーニングメニューが課せられた。
トレーナー達は彼に対し厳しく接した。「自分は元病人だから」だという甘い考えを持たせないためだ。だが、彼自身もともとそんな甘い考えは持ってはおらず、ただ、トレーナーたちの厳しいトレーニングを素直に受け入れた。
厳しいトレーニングの中、彼を復帰に向けて奮い立たせていたのは、智美の存在だった。
自分が深い眠りの中にいる間、智美が一人だけでがんばり続け、そして現在という結果があることが、心の中に自分も頑張らねばという気持ちをいつも強く持たせていた。
トレーニングに励み、徐々に以前のたくましい体格を取り戻し、そしてついに彼にはテニスの練習の再開許可がおりることとなった。
意識を取り戻してからここまで8ヶ月――――――
一日一日が、とても長かった。
「はいラスト1km!!ペースを上げて!」
「はぁ!はぁ!はぁ!はぁ!はぁあああぁあ!」
エアロサイクルのペダルを踏みこむリズムが、一気に早くなる。
頭からあふれ出る汗が、顎から地面へ滴り落ちる。
「はいラスト300!……200!……100……はい、終了―!タイムは…うん、いいね!もう持久力はだいたい戻ったんじゃないかな」
そう言いながら、トレーナーは彼にタオルを差し出した。
「はぁ、はぁ、はぁ、あ、ありがとうございます…!」
受け取ったタオルで汗を拭いながら、彼はそうお礼を言った。
「ついに明日からテニスの練習だね。どう?ワクワクしてるんじゃない?」
「はぁ、はぁ、はぁ……あの、渡部(トレーナー)さん、一つお願いがあるんですけど…」
「ん?なに?」
「明日のテニスの練習なんですが……その、俺のプレイスタイルを一番知ってる人たちの前で、テニスをしたいんです…
翌日、神奈川県小田原市 PM1:30―――――――――
「次は、終点K大学前―、K大学前―、車内にお忘れ物の無いようにご注意くださいー」
バスの中に車内アナウンスが流れ、彼は大きなラケットバッグを背負い、下車に備えた。
彼が最初の練習場所に選んだのは、母校であるK大学だった。
深い眠りについていた一年間もの間、休学扱いされていた彼の大学の学籍は、彼自身が親に頼み4月に抜いてもらっていた。
しかし、ここを彼の練習再開の場所として選んだことに、反対する人はいるはずがなかった。
もう、これからは何度も来れる場所ではない。そんなことは分かっている。でも、自分を育ててくれたたこの場所から、彼はまたソフトテニスを始めたかった。
「…あれ??」
懐かしく感じる校舎の間を通り抜け、テニスコートの前までやってきた彼だったが、練習しているはずの部員たちが一人もコートにいなかった。
「………???」
おかしいなぁ…昨日部長に連絡したときは、この時間にはもう練習は始まってるって聞いたんだけど…さてはアイツ時間言い間違えたな?どうしよう…?
ドタドタドタドタドタ!
その瞬間、近くの校舎の影から大勢の人が彼に向かって走り寄ってきて、瞬く間に彼は取り囲まれてしまった。見慣れた黄色いユニフォーム姿…ソフトテニス部の部員たちだ。
「せーの、直哉先輩!!おかえりなさーーーい!!!」
パン!パンッ!!パン!パン!!!パン!
彼の頭上へ高く舞い上がったクラッカーの紙吹雪は、ひらひらと舞い落ちて、そして優しく彼の頭の上に降り積もった。
…ふふふ、火薬臭えよバカ………目に沁みて、涙が出てきそうじゃんか。
直哉はクスっと微笑んで、大きな声で言った。
「ただいま!」
2009年11月 東京都北区 国立スポーツ科学センター リハビリテーション室
一人の大柄で色黒な男が、顔中に汗を浮かべながらエアロサイクルをこいでいた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ!」
汗が顎から地面へポツリ、ポツリとたれ落ちる。
「はい、ラスト3km!もう少し!がんばれ!」
トレーナーの力強いゲキが室内に響く。
事故以前、67kgあった彼の体重は、意識が戻ったときには51kgまでに減少していた。
10日間に及ぶ精密検査の結果、幸い体には障害や視力低下、また心配された胃や肝機能の異常などは見られず、外見上では体がやせ細った以外に変化はなかったが、決してそれからの道のりは平坦ではなかった。
彼に課せられた最初のリハビリとは、「背もたれを必要とせず、椅子に座ること」だった。
いや、正確に言えば「背もたれのない椅子に座り続ける」というものだ。
一年もの間、ベッドの上で横になり続けていた彼の体は、まず、体を起こし続けるという事さえも忘れかけていたのだ。
背もたれがある椅子では、背もたれに体を預けていられるため楽に座れるのだが、体を預けることができない背もたれのない椅子では、上半身を自分の力で真っ直ぐに支え続けなければならない。
彼が最初に背もたれのない椅子に座り続けられた時間は、たったの16秒だった。
まず、耳の中にある体の平衡感覚を司る三半規管の機能を回復させるのに、3週間もの時間を要した。
続いては歩行訓練だ。
三半規管の回復により、立ち上がることはすぐにできた彼であったが、それと歩くことはまったくの別なコトだった。
軽いはずの体が重く、すぐに息が切れ、そして、よく躓いた。
なんども膝に大きな痣を作り、自分ひとりで安心して歩行が出来るようになるまで、更に一ヶ月もの時間がかかった。
担当医の許可を得て、ここでようやく退院をすることができた彼だったが、本格的な厳しいリハビリは、ここからが始まりだった。
ソフトテニスをするにあたり、彼が失ったものは非常に多い。
筋力。
持久力。
そして、経験という名の試合勘だ。
ヨネクッスの相川のサポートのもと、復帰に向けて最初に彼に課せられたトレーニングは、ランニングと自分の過去のソフトテニスの試合を収めたDVDを観ることだった。
十分な筋力が戻る前にラケットを振ってしまえば、変な癖が身についてしまう。そのため、まだラケットを振ることは許されなかった。
まず必要なことは、運動するために最低限必要な筋力と持久力をランニングで養い、そして、DVDを観て自分の体が失いかけている自分のプレイスタイルと試合勘を少しでも本格的なテニスの練習が始まる前に思い出さすということだった。
テニスにおいて、試合勘というものはテクニックや筋力と同等以上に大切なモノ。
ましてや彼は前衛の選手。
前衛の主な仕事は、相手の後衛が打つ球をネット際で返すポーチという動作。
試合の中でそのポーチをするかしないかを一瞬で判断するのは、ゲームの流れを読む経験という名の試合勘なのだ。
朝起きてまず5kmのランニング。そして昼食後にDVDを3時間見て、夕方にまた5kmのランニング。
彼は3ヶ月もの間、ひたすらその生活を繰り返した。
彼が目覚めてから5ヵ月後、季節は9月――――
彼は静岡の実家を離れ、東京へ出てきた。
東京都北区にある国立スポーツ科学センターにて、彼は泊り込みで復帰に向けた長期トレーニングを行うことになったのだ。
国立スポーツ科学センターとは、日本のトップアスリートのみが活動を許される日本スポーツ界の医・科学・情報の中枢機関である。彼は、日本ソフトテニス協会が指定する特別強化指定選手として、特別に合宿が許可された。
ヨネクッスや多くの優秀なトレーナーのもと、彼には事故以前の体を取り戻すため、的確で濃いトレーニングメニューが課せられた。
トレーナー達は彼に対し厳しく接した。「自分は元病人だから」だという甘い考えを持たせないためだ。だが、彼自身もともとそんな甘い考えは持ってはおらず、ただ、トレーナーたちの厳しいトレーニングを素直に受け入れた。
厳しいトレーニングの中、彼を復帰に向けて奮い立たせていたのは、智美の存在だった。
自分が深い眠りの中にいる間、智美が一人だけでがんばり続け、そして現在という結果があることが、心の中に自分も頑張らねばという気持ちをいつも強く持たせていた。
トレーニングに励み、徐々に以前のたくましい体格を取り戻し、そしてついに彼にはテニスの練習の再開許可がおりることとなった。
意識を取り戻してからここまで8ヶ月――――――
一日一日が、とても長かった。
「はいラスト1km!!ペースを上げて!」
「はぁ!はぁ!はぁ!はぁ!はぁあああぁあ!」
エアロサイクルのペダルを踏みこむリズムが、一気に早くなる。
頭からあふれ出る汗が、顎から地面へ滴り落ちる。
「はいラスト300!……200!……100……はい、終了―!タイムは…うん、いいね!もう持久力はだいたい戻ったんじゃないかな」
そう言いながら、トレーナーは彼にタオルを差し出した。
「はぁ、はぁ、はぁ、あ、ありがとうございます…!」
受け取ったタオルで汗を拭いながら、彼はそうお礼を言った。
「ついに明日からテニスの練習だね。どう?ワクワクしてるんじゃない?」
「はぁ、はぁ、はぁ……あの、渡部(トレーナー)さん、一つお願いがあるんですけど…」
「ん?なに?」
「明日のテニスの練習なんですが……その、俺のプレイスタイルを一番知ってる人たちの前で、テニスをしたいんです…
翌日、神奈川県小田原市 PM1:30―――――――――
「次は、終点K大学前―、K大学前―、車内にお忘れ物の無いようにご注意くださいー」
バスの中に車内アナウンスが流れ、彼は大きなラケットバッグを背負い、下車に備えた。
彼が最初の練習場所に選んだのは、母校であるK大学だった。
深い眠りについていた一年間もの間、休学扱いされていた彼の大学の学籍は、彼自身が親に頼み4月に抜いてもらっていた。
しかし、ここを彼の練習再開の場所として選んだことに、反対する人はいるはずがなかった。
もう、これからは何度も来れる場所ではない。そんなことは分かっている。でも、自分を育ててくれたたこの場所から、彼はまたソフトテニスを始めたかった。
「…あれ??」
懐かしく感じる校舎の間を通り抜け、テニスコートの前までやってきた彼だったが、練習しているはずの部員たちが一人もコートにいなかった。
「………???」
おかしいなぁ…昨日部長に連絡したときは、この時間にはもう練習は始まってるって聞いたんだけど…さてはアイツ時間言い間違えたな?どうしよう…?
ドタドタドタドタドタ!
その瞬間、近くの校舎の影から大勢の人が彼に向かって走り寄ってきて、瞬く間に彼は取り囲まれてしまった。見慣れた黄色いユニフォーム姿…ソフトテニス部の部員たちだ。
「せーの、直哉先輩!!おかえりなさーーーい!!!」
パン!パンッ!!パン!パン!!!パン!
彼の頭上へ高く舞い上がったクラッカーの紙吹雪は、ひらひらと舞い落ちて、そして優しく彼の頭の上に降り積もった。
…ふふふ、火薬臭えよバカ………目に沁みて、涙が出てきそうじゃんか。
直哉はクスっと微笑んで、大きな声で言った。
「ただいま!」
#あとがき
- 2008-07-16 (Wed)
- 小説 神様のロトリー
いやー、4ヶ月半にも渡って書いてきました、アルマークの初小説「神様のロトリー」ついに終わりです。
総文字数なんと114500字…どうなんでしょ?小説一冊分くらいはあるんですかね?
こんなダメダメ小説を読んでいたたいた上、今このあとがきを書いてる時点での総拍手数44と、コメントをしていただいた方々、本当にありがとうございました!
なかったらたぶん、最後まで続けてられなかったです…。
それでは、すごい眠くてなんだか上手く文が書けないですけど、せっかくなんでこの物語について少し書きます。
まあ、大まかなあらすじだけを考えて書き始めたワケなんですが…、#3話辺りを書いてるときに、一つ大事なことに気がつきました。
この物語ででてくるソフトテニスと音楽という分野なんですが…
文章で表現できないのでは??
と思ったんですよ。
まずは、ソフトテニスについて。
これはいくら考えても、実際に試合をしている場面などは書けないと思い、途中で書こうか悩んだんですが、結局、飛ばしてしまいました。
無理です。あまりにも視覚に頼りすぎるスポーツなので。専門用語も多いし、ソフトテニス経験者でなきゃ読んだとしても理解できないと判断しました。
まぁ、本当の小説家なら誰でも理解できるように書けるかもしれないですが。
次は音楽。
音楽で一番大切なのは聴覚なので、やっぱり文章での表現は難しいのではと思いました。実際の音は文章で表すのは不可能なので。それで、せめて臨場感だけでもと、武道館ライブの時に試しに書いてみました。上手く書けたのかどうか…自分じゃ分からないんですよね…。
あとは…うーん、ほんと見苦しい文章でごめんなさい!てなことだけです。
日本語って難しいですよね…
ああ、そうそう。これは小説を書いたり読んだりしてる時に思ったんですが、本当に良い文章というのは、「平凡な言葉でありながら、でもすばらしい言葉」というものだと思うんです。なので、決して難しい表現や漢字を使えるからといってそれがすばらしい文章ではないんだと思います。まぁ、これはあくまで個人的な考えであって、本当は各々の自由だと思いますけど。。
さて…このブログどうしよう(笑)
とりあえずブログ名は変えないと。
とりあえず、今月はこれ以上小説は書かないと思います。他にしなければならないことがあるので。
最後に、この小説を読んでいただいた方々、本当にありがとうございました!
ちょっとだけでもいいんで、感想をいただけたら幸いです。
7月15日 18:15追記
そうだ、もう一つ。
L.A.SQUASHという名を勝手に使用してしまい、申し訳ありませんでした。
まぁ、メンバーの方が見ていらっしゃるとは思えませんが、一応書いておきます。
お詫びといってはなんですが、ちょっとだけ宣伝させていただきますよ。
彼らを知ってる方もいるかもしれませんが、物語に数回登場してきたL.A.SQUASHという歌手なんですが、実際に京都を中心に活動していらっしゃるインディーズ・バンドです。確かCDも2〜3枚リリースしていたような。
ジャンルはパンク・エモ・ロックかな?かっこいいですよ。女性ボーカルの声がすごい綺麗です。全部英語歌詞ですけどね。
アルマークはELLEGARDENの次は彼らが来るんじゃないのかと思っているんですが、知名度が低いのか、やはり全部英語なのがいけないのか、いまいち未だにパッとしてません。
好みが分かれる曲調だと思いますが、ニコニコ動画で見つけたんで良かったら聴いて下さい。
どうでしょう?ちなみに、これはMADと呼ばれるもので、ペルソナ3のOPを実際に歌っているワケではありません。これはどなたかが勝手に造った動画です。
他の曲もお聴きになりたかったら、http://www.myspace.com/lasquash でも2曲だけ試聴できます。
改めて、彼らの名を勝手に使用してしまい、申し訳ありませんでした。
ではでは。
総文字数なんと114500字…どうなんでしょ?小説一冊分くらいはあるんですかね?
こんなダメダメ小説を読んでいたたいた上、今このあとがきを書いてる時点での総拍手数44と、コメントをしていただいた方々、本当にありがとうございました!
なかったらたぶん、最後まで続けてられなかったです…。
それでは、すごい眠くてなんだか上手く文が書けないですけど、せっかくなんでこの物語について少し書きます。
まあ、大まかなあらすじだけを考えて書き始めたワケなんですが…、#3話辺りを書いてるときに、一つ大事なことに気がつきました。
この物語ででてくるソフトテニスと音楽という分野なんですが…
文章で表現できないのでは??
と思ったんですよ。
まずは、ソフトテニスについて。
これはいくら考えても、実際に試合をしている場面などは書けないと思い、途中で書こうか悩んだんですが、結局、飛ばしてしまいました。
無理です。あまりにも視覚に頼りすぎるスポーツなので。専門用語も多いし、ソフトテニス経験者でなきゃ読んだとしても理解できないと判断しました。
まぁ、本当の小説家なら誰でも理解できるように書けるかもしれないですが。
次は音楽。
音楽で一番大切なのは聴覚なので、やっぱり文章での表現は難しいのではと思いました。実際の音は文章で表すのは不可能なので。それで、せめて臨場感だけでもと、武道館ライブの時に試しに書いてみました。上手く書けたのかどうか…自分じゃ分からないんですよね…。
あとは…うーん、ほんと見苦しい文章でごめんなさい!てなことだけです。
日本語って難しいですよね…
ああ、そうそう。これは小説を書いたり読んだりしてる時に思ったんですが、本当に良い文章というのは、「平凡な言葉でありながら、でもすばらしい言葉」というものだと思うんです。なので、決して難しい表現や漢字を使えるからといってそれがすばらしい文章ではないんだと思います。まぁ、これはあくまで個人的な考えであって、本当は各々の自由だと思いますけど。。
さて…このブログどうしよう(笑)
とりあえずブログ名は変えないと。
とりあえず、今月はこれ以上小説は書かないと思います。他にしなければならないことがあるので。
最後に、この小説を読んでいただいた方々、本当にありがとうございました!
ちょっとだけでもいいんで、感想をいただけたら幸いです。
7月15日 18:15追記
そうだ、もう一つ。
L.A.SQUASHという名を勝手に使用してしまい、申し訳ありませんでした。
まぁ、メンバーの方が見ていらっしゃるとは思えませんが、一応書いておきます。
お詫びといってはなんですが、ちょっとだけ宣伝させていただきますよ。
彼らを知ってる方もいるかもしれませんが、物語に数回登場してきたL.A.SQUASHという歌手なんですが、実際に京都を中心に活動していらっしゃるインディーズ・バンドです。確かCDも2〜3枚リリースしていたような。
ジャンルはパンク・エモ・ロックかな?かっこいいですよ。女性ボーカルの声がすごい綺麗です。全部英語歌詞ですけどね。
アルマークはELLEGARDENの次は彼らが来るんじゃないのかと思っているんですが、知名度が低いのか、やはり全部英語なのがいけないのか、いまいち未だにパッとしてません。
好みが分かれる曲調だと思いますが、ニコニコ動画で見つけたんで良かったら聴いて下さい。
どうでしょう?ちなみに、これはMADと呼ばれるもので、ペルソナ3のOPを実際に歌っているワケではありません。これはどなたかが勝手に造った動画です。
他の曲もお聴きになりたかったら、http://www.myspace.com/lasquash でも2曲だけ試聴できます。
改めて、彼らの名を勝手に使用してしまい、申し訳ありませんでした。
ではでは。
#46 一枚の大きな桜の花びら
- 2008-07-16 (Wed)
- 小説 神様のロトリー
TOMOMI JAPAN TOUR 初日 武道館公演終了後 舞台裏廊下―――
「ありがとうございました!」
「うん、お疲れ様!がんばったね!」
智美はライブ成功の感謝の気持ちを伝えるため、廊下を周りながらライブの関係者一人一人と握手をしていた。
あの事故があってから、いつもあたしの心の中には、罪悪感という名の悪魔が住んでいて、度々あたしを苦しめてきた。でも、その悪魔はもう、あたしの中にはいない。
「…うふふ」
あぁ、笑顔が止まらない。顔がにやけてにやけて、どうしようもない。
「そんじゃあ!皆さん打ち上げは10時に裏口前に集合です!!遅れないようにお願いしまーす!!」
スタッフの大きな声が廊下に響き渡った。
「さ、早く智美ちゃんも着替えてきて」
「は〜〜〜い! ルン♪ルン♭ルン♯」
鼻歌を歌いながら智美は控え室へと戻った。
着替えをして、あらかた帰り支度を終えると、智美は携帯電話の電源を入れた。
新着メールの問い合わせをすると、友達や家族から多くのお祝いメールが届いていた。
だが、その内容は「かっこよかった!」とか「夢叶ったね!おめでとう!」というもので、直哉については誰も書いてはいなかった。
あ……そうか…まだみんな知らないんだ。う〜ん、でもたぶん、これからみんなに連絡が段々回って、みんな直哉に会いに行くんだろうなぁ………いいなぁ、あたしも行きたいな…いつ会えるかなぁ…しばらくは無理かな…早く会いたい…
「……あ、もう時間だ…」
時計を見ると、もう集合時間になろうとしていたため、急いで智美は荷物を持って集合場所である裏口前へと向かった。
「………あら?」
集合場所に着いた智美だったが、そこには誰もいなかった。
あれれ?なんで?もうみんな行っちゃったのぉ!?うそ〜〜〜〜。
「清田さん」
「はい?あ、石川さん!」
辺りをキョロキョロと探していると、後ろから石川が話しかけてきた。
「みんなどこ行ったんですか?もしかして、もうみんな打ち上げに行っちゃったんですか!?」
慌てて智美は石川に尋ねた。
「うん、そうだよ」
石川は淡々とそう答えた。
「おおお!?本当に?ちょっ、なんであたしを置いていくんですか!?ヒドイですよ!」
石川の答えに驚き、智美はすかさず問い返した。
「…ちょうど一年前の今日って…なんの日だったか覚えてるかな?」
「……え?」
な、なんだ?一年前の今日…?今日は3月26日…去年の3月26日……?…あ、そうか…。
「…スカウトされて…、あたしがスタジオで唄った日…ですよね?」
「うん、正解!そんなワケで、はい!これデビュー決定一周年記念プレゼント!」
そう言うと、石川は智美に一枚の紙を手渡した。
「え?え?」
よく見ると、それは新幹線の切符で、
[22時47分発 こだま709号 東京→三島]
と書かれていた。
「…石川さん?…これって…?」
「ん?さっき言ったでしょ?デビュー決定一周年記念プレゼント。さぁ、今は何時でしょう?」
「…10時ちょうど…です…」
「うん。今から行けばちょうどいい位だよね。んじゃあ行ってらっしゃい!……あ、一応言っとくけど、明日はホテルのロビーに昼の1時に集合だからね。忘れないでね」
「…あの…さっきの…打ち上げは10時集合っていうのは……?」
「あぁ、あれ?もちろん清田さんをハメるためのみんなの嘘!ははっ!誰もいなくてびっくりした?……今、清田さんは打ち上げなんかより、行かなきゃいけないトコあるでしょ?さあ、行っておいで」
………グヒんッ!
もう…泣かせないでよ、みんなのアホ。
智美は石川に対し、深く頭を下げた。
「ホントに、ありがとうございます!それじゃ、行って来ます!!」
翌日、3月27日 PM1:00 伊豆総合病院 外科病棟3階――――――
私の名前は田中美里。伊豆総合病院・外科病棟に勤務する看護士だ。
昨夜、一年もの間意識を失っていた木下直哉さんという患者が目を覚ました。
私はかれこれ8年も看護士をしているけれど、こんな奇跡を呼べる出来事に遭ったのは初めてだった。
彼の担当だった牧野先生は、「私のおかげだ!私の治療方法が効いたんだ!私は名医だ!」だなんて調子に乗っていたけれど、私はそうは思わない。
彼が助かったのは、彼が多くの大切な友達を持っていたから。
毎日毎日、交代で見舞いに訪れていた彼らの強い気持ちが、きっと彼に届き、そして目を覚ましたのだと思う。
時に、「気持ちは薬よりも強し」ってね。
「ワイワイガヤガヤ!ワイワイガヤガヤ!!」
今日、彼のもとには絶え間なく見舞い客が訪れていて、部屋からは大きな声が頻繁に聞こえてくる。
正直、他の患者さんに迷惑がかかりそうな程うるさいから、注意しなければならないけど、私だって空気は読める。
今日だけは、見逃してあげることにしよう。
3月27日 PM1:06 東京都千代田区 ホイットモアホテル正面玄関前
私の名前は清田智美。エイヘックスレコードに所属するシンガーソングライターです。
一応、本名は非公開で、TVの中ではTOMOMIと名乗ってます。
昨日から、私は初めての全国ツアーが始まりました。
その最中、私の大切な人が目を覚ましました。
あまりにも嬉しくて、アンコールの最後の曲を唄っている最中、私は泣き出してしまい、唄えなくなってしまいました。
そんな唄えない私に代わって、観客たちが唄ってくれたあの光景は、きっといつまでも忘れないでしょう。
でも、その後病院へ彼を訪ねた際、「まだプロ根性が足りない」と私は彼に言われてしまいました。
あはは、まぁ、しょうがないですよね。何しろ私はまだCDデビューから8ヶ月なんですから。
一年前はあれ程たくましかった彼の体は、ウソのように痩せ細り、彼自身、その事には苦笑いをしていました。ふくらはぎとか二の腕とか、肉がプルプルしていて、とてもまだまだ運動ができる体ではなかったけれど、彼は私にこう言いました。
「俺はソフトテニスの選手だ」
私は信じています。きっと、彼なら大丈夫。
思えば、今日があの事故からちょうど一年というのも、不思議なめぐり合わせという気がします。
あの事故は、私たちから大きなものを奪っていったけれど、代わりに多くの大切なモノを与えてくれた。
だから、決してもう、私はあの頃に戻りたいだなんて思いません。
私たちは、幸せです。
私は、これからバスに乗って次の公演地、仙台へ向かいますー
ひらひらと、大きな桜の花びらが一枚、智美の横を通り過ぎていった。
終
「ありがとうございました!」
「うん、お疲れ様!がんばったね!」
智美はライブ成功の感謝の気持ちを伝えるため、廊下を周りながらライブの関係者一人一人と握手をしていた。
あの事故があってから、いつもあたしの心の中には、罪悪感という名の悪魔が住んでいて、度々あたしを苦しめてきた。でも、その悪魔はもう、あたしの中にはいない。
「…うふふ」
あぁ、笑顔が止まらない。顔がにやけてにやけて、どうしようもない。
「そんじゃあ!皆さん打ち上げは10時に裏口前に集合です!!遅れないようにお願いしまーす!!」
スタッフの大きな声が廊下に響き渡った。
「さ、早く智美ちゃんも着替えてきて」
「は〜〜〜い! ルン♪ルン♭ルン♯」
鼻歌を歌いながら智美は控え室へと戻った。
着替えをして、あらかた帰り支度を終えると、智美は携帯電話の電源を入れた。
新着メールの問い合わせをすると、友達や家族から多くのお祝いメールが届いていた。
だが、その内容は「かっこよかった!」とか「夢叶ったね!おめでとう!」というもので、直哉については誰も書いてはいなかった。
あ……そうか…まだみんな知らないんだ。う〜ん、でもたぶん、これからみんなに連絡が段々回って、みんな直哉に会いに行くんだろうなぁ………いいなぁ、あたしも行きたいな…いつ会えるかなぁ…しばらくは無理かな…早く会いたい…
「……あ、もう時間だ…」
時計を見ると、もう集合時間になろうとしていたため、急いで智美は荷物を持って集合場所である裏口前へと向かった。
「………あら?」
集合場所に着いた智美だったが、そこには誰もいなかった。
あれれ?なんで?もうみんな行っちゃったのぉ!?うそ〜〜〜〜。
「清田さん」
「はい?あ、石川さん!」
辺りをキョロキョロと探していると、後ろから石川が話しかけてきた。
「みんなどこ行ったんですか?もしかして、もうみんな打ち上げに行っちゃったんですか!?」
慌てて智美は石川に尋ねた。
「うん、そうだよ」
石川は淡々とそう答えた。
「おおお!?本当に?ちょっ、なんであたしを置いていくんですか!?ヒドイですよ!」
石川の答えに驚き、智美はすかさず問い返した。
「…ちょうど一年前の今日って…なんの日だったか覚えてるかな?」
「……え?」
な、なんだ?一年前の今日…?今日は3月26日…去年の3月26日……?…あ、そうか…。
「…スカウトされて…、あたしがスタジオで唄った日…ですよね?」
「うん、正解!そんなワケで、はい!これデビュー決定一周年記念プレゼント!」
そう言うと、石川は智美に一枚の紙を手渡した。
「え?え?」
よく見ると、それは新幹線の切符で、
[22時47分発 こだま709号 東京→三島]
と書かれていた。
「…石川さん?…これって…?」
「ん?さっき言ったでしょ?デビュー決定一周年記念プレゼント。さぁ、今は何時でしょう?」
「…10時ちょうど…です…」
「うん。今から行けばちょうどいい位だよね。んじゃあ行ってらっしゃい!……あ、一応言っとくけど、明日はホテルのロビーに昼の1時に集合だからね。忘れないでね」
「…あの…さっきの…打ち上げは10時集合っていうのは……?」
「あぁ、あれ?もちろん清田さんをハメるためのみんなの嘘!ははっ!誰もいなくてびっくりした?……今、清田さんは打ち上げなんかより、行かなきゃいけないトコあるでしょ?さあ、行っておいで」
………グヒんッ!
もう…泣かせないでよ、みんなのアホ。
智美は石川に対し、深く頭を下げた。
「ホントに、ありがとうございます!それじゃ、行って来ます!!」
翌日、3月27日 PM1:00 伊豆総合病院 外科病棟3階――――――
私の名前は田中美里。伊豆総合病院・外科病棟に勤務する看護士だ。
昨夜、一年もの間意識を失っていた木下直哉さんという患者が目を覚ました。
私はかれこれ8年も看護士をしているけれど、こんな奇跡を呼べる出来事に遭ったのは初めてだった。
彼の担当だった牧野先生は、「私のおかげだ!私の治療方法が効いたんだ!私は名医だ!」だなんて調子に乗っていたけれど、私はそうは思わない。
彼が助かったのは、彼が多くの大切な友達を持っていたから。
毎日毎日、交代で見舞いに訪れていた彼らの強い気持ちが、きっと彼に届き、そして目を覚ましたのだと思う。
時に、「気持ちは薬よりも強し」ってね。
「ワイワイガヤガヤ!ワイワイガヤガヤ!!」
今日、彼のもとには絶え間なく見舞い客が訪れていて、部屋からは大きな声が頻繁に聞こえてくる。
正直、他の患者さんに迷惑がかかりそうな程うるさいから、注意しなければならないけど、私だって空気は読める。
今日だけは、見逃してあげることにしよう。
3月27日 PM1:06 東京都千代田区 ホイットモアホテル正面玄関前
私の名前は清田智美。エイヘックスレコードに所属するシンガーソングライターです。
一応、本名は非公開で、TVの中ではTOMOMIと名乗ってます。
昨日から、私は初めての全国ツアーが始まりました。
その最中、私の大切な人が目を覚ましました。
あまりにも嬉しくて、アンコールの最後の曲を唄っている最中、私は泣き出してしまい、唄えなくなってしまいました。
そんな唄えない私に代わって、観客たちが唄ってくれたあの光景は、きっといつまでも忘れないでしょう。
でも、その後病院へ彼を訪ねた際、「まだプロ根性が足りない」と私は彼に言われてしまいました。
あはは、まぁ、しょうがないですよね。何しろ私はまだCDデビューから8ヶ月なんですから。
一年前はあれ程たくましかった彼の体は、ウソのように痩せ細り、彼自身、その事には苦笑いをしていました。ふくらはぎとか二の腕とか、肉がプルプルしていて、とてもまだまだ運動ができる体ではなかったけれど、彼は私にこう言いました。
「俺はソフトテニスの選手だ」
私は信じています。きっと、彼なら大丈夫。
思えば、今日があの事故からちょうど一年というのも、不思議なめぐり合わせという気がします。
あの事故は、私たちから大きなものを奪っていったけれど、代わりに多くの大切なモノを与えてくれた。
だから、決してもう、私はあの頃に戻りたいだなんて思いません。
私たちは、幸せです。
私は、これからバスに乗って次の公演地、仙台へ向かいますー
ひらひらと、大きな桜の花びらが一枚、智美の横を通り過ぎていった。
終
#45 アンコール
- 2008-07-15 (Tue)
- 小説 神様のロトリー
振り返ると、石川さんがあたしに駆け寄ってくる姿が見えた。
「はぁ、はぁ、はぁ……はい!清田さんコレ!!」
息を切らしながら駆け寄ってきた石川は、智美に一台の携帯電話を差し出した。
え?…?どういう事?それより今は…
「いや、あの石川さん、あたしステージに戻らないと…!」
智美はそう言うと、差し出された携帯電話を石川に返そうとした。
だが、石川はその携帯電話を受け取らず、微笑みながら智美にこう言った。
「TOMOMIのアンコールを求めてる声は、あれですべてじゃないよ」
「………………………………え?」
智美は携帯電話を見つめる。
ドクンッ ドクンッ ドクンッ
……………この電話の向こう側にいる人は…誰…?なんでだろう、なんでこんなにドキドキするんだろう。
そう思いながら、智美はゆっくりと携帯電話を耳元に近づけた。
「……………………もしもし?」
「「…ア゛ンゴール……ア゛ンゴール……ア゛ンゴール…」」
「!!」
電話の向こう側にいた人は、すごい声がかすれていたけれど、その声の持ち主が誰なのか、智美が分からないはずがなかった。
「……直哉?…直哉でしょ!?…直哉なんだよね!??」
「「へへ…智美、びさじぶり…なの゛…がな?あんまぞんな気じないげど…」」
あぁ………この声…!…直哉……!!
あまりの突然の出来事に、智美の胸の中には熱い気持ちがどっと溢れ出し、その場に崩れ落ちるように座り込んでしまった。
「直哉ぁ……!」
座り込んだまま、体から搾り出すように智美は彼の名を叫んだ。
「「へへ…智美、ヂゲッド、ありがどね…」」
チケット………?なんで今そんな事……
「……だって、約束したじゃん…」
今にも泣き出しそうなか細い声で、智美はそう言った。
「「ぞだね…。ねぇ智美。ごれで、武道館の観客全員のア゛ンゴールが智美に゛届いだわけだげど……さぁ、TOMOMIどうずる…?」」
「……え?」
「「み゛んな、TOMOMIの歌声をもっど聴ぎだいんだよ゛…」」
「………うん」
「「…がんばれ!TOMOMI!…ゴホッゴホッ」
ああぁ…そうか…直哉…まだ声が…
「…うん、がんばる!…直哉、ありがとう」
「「どういだ…」」 プツッ!
直哉はまだ、あたしに何かを言いたそうだったけれど、無情にもあたしは電話を切った。
十分すぎるほど、もう彼の気持ちはあたしに伝わった。
「アンコール!!アンコール!!アンコール!!アンコール!!!」
暗闇に包まれた館内では、絶え間なくTOMOMIの再登場を求める観客たちの大きな声が響き渡っている。
…うん、こんなとこで座ってる場合じゃない!
TOMOMIは彼らの声に応えるため、力強く立ち上がり、涙腺に溜まり始めていた涙を強引に体の中へと押し戻した。
そして、ステージに向かって大きく一歩を踏み出した。
「それではスタンバイいいですかー!!?」
スタッフの大きな声が舞台裏に響き渡った。
「お願いしまーす!!」
あたしは、もっと大きな声でスタッフに返事をした。
ピカッ!!
「ワァ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
再度、武道館のステージが照明に明るく照らし出されると、観客たちは待っていましたとばかりに大きな歓声をあげた。
再び、熱気を帯び始めた館内。観客たちは歓声をあげて主役の登場を待ちわびる。
「ス〜〜〜〜〜…フゥーーーー……へへっ」
スタンバイ位置に着いたTOMOMIは目をつむって、一度大きく深呼吸をし、そしてそっと笑った。
あたしの一番大切な人が、深い眠りから覚めた。
あたしの一番大切な人が、ラジオであたしの曲を聴いてくれていた。
あたしの一番大切な人が、あたしにアンコールをした。
あたしの一番大切な人は、今、この武道館にはいないけれど、できればあたしの生の歌声を聴いて欲しかったけれど、でも、あたしは本当に嬉しい。
あたしの一番大切な人は、起きたんだ。
「…よしっ!」
TOMOMIは光り輝くステージの中へ、満面の笑顔をしながら走り出した。
「はぁ、はぁ、はぁ……はい!清田さんコレ!!」
息を切らしながら駆け寄ってきた石川は、智美に一台の携帯電話を差し出した。
え?…?どういう事?それより今は…
「いや、あの石川さん、あたしステージに戻らないと…!」
智美はそう言うと、差し出された携帯電話を石川に返そうとした。
だが、石川はその携帯電話を受け取らず、微笑みながら智美にこう言った。
「TOMOMIのアンコールを求めてる声は、あれですべてじゃないよ」
「………………………………え?」
智美は携帯電話を見つめる。
ドクンッ ドクンッ ドクンッ
……………この電話の向こう側にいる人は…誰…?なんでだろう、なんでこんなにドキドキするんだろう。
そう思いながら、智美はゆっくりと携帯電話を耳元に近づけた。
「……………………もしもし?」
「「…ア゛ンゴール……ア゛ンゴール……ア゛ンゴール…」」
「!!」
電話の向こう側にいた人は、すごい声がかすれていたけれど、その声の持ち主が誰なのか、智美が分からないはずがなかった。
「……直哉?…直哉でしょ!?…直哉なんだよね!??」
「「へへ…智美、びさじぶり…なの゛…がな?あんまぞんな気じないげど…」」
あぁ………この声…!…直哉……!!
あまりの突然の出来事に、智美の胸の中には熱い気持ちがどっと溢れ出し、その場に崩れ落ちるように座り込んでしまった。
「直哉ぁ……!」
座り込んだまま、体から搾り出すように智美は彼の名を叫んだ。
「「へへ…智美、ヂゲッド、ありがどね…」」
チケット………?なんで今そんな事……
「……だって、約束したじゃん…」
今にも泣き出しそうなか細い声で、智美はそう言った。
「「ぞだね…。ねぇ智美。ごれで、武道館の観客全員のア゛ンゴールが智美に゛届いだわけだげど……さぁ、TOMOMIどうずる…?」」
「……え?」
「「み゛んな、TOMOMIの歌声をもっど聴ぎだいんだよ゛…」」
「………うん」
「「…がんばれ!TOMOMI!…ゴホッゴホッ」
ああぁ…そうか…直哉…まだ声が…
「…うん、がんばる!…直哉、ありがとう」
「「どういだ…」」 プツッ!
直哉はまだ、あたしに何かを言いたそうだったけれど、無情にもあたしは電話を切った。
十分すぎるほど、もう彼の気持ちはあたしに伝わった。
「アンコール!!アンコール!!アンコール!!アンコール!!!」
暗闇に包まれた館内では、絶え間なくTOMOMIの再登場を求める観客たちの大きな声が響き渡っている。
…うん、こんなとこで座ってる場合じゃない!
TOMOMIは彼らの声に応えるため、力強く立ち上がり、涙腺に溜まり始めていた涙を強引に体の中へと押し戻した。
そして、ステージに向かって大きく一歩を踏み出した。
「それではスタンバイいいですかー!!?」
スタッフの大きな声が舞台裏に響き渡った。
「お願いしまーす!!」
あたしは、もっと大きな声でスタッフに返事をした。
ピカッ!!
「ワァ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
再度、武道館のステージが照明に明るく照らし出されると、観客たちは待っていましたとばかりに大きな歓声をあげた。
再び、熱気を帯び始めた館内。観客たちは歓声をあげて主役の登場を待ちわびる。
「ス〜〜〜〜〜…フゥーーーー……へへっ」
スタンバイ位置に着いたTOMOMIは目をつむって、一度大きく深呼吸をし、そしてそっと笑った。
あたしの一番大切な人が、深い眠りから覚めた。
あたしの一番大切な人が、ラジオであたしの曲を聴いてくれていた。
あたしの一番大切な人が、あたしにアンコールをした。
あたしの一番大切な人は、今、この武道館にはいないけれど、できればあたしの生の歌声を聴いて欲しかったけれど、でも、あたしは本当に嬉しい。
あたしの一番大切な人は、起きたんだ。
「…よしっ!」
TOMOMIは光り輝くステージの中へ、満面の笑顔をしながら走り出した。
#44 スタンディングオーベーション
- 2008-07-12 (Sat)
- 小説 神様のロトリー
唄っている最中、おでこを伝ってしたたり落ちてきた汗が、目に入ってしみた。
でも、あたしはギターを弾きながら唄っている最中で、目に入った汗を拭うことができなかった。
気付くと、あたしは汗まみれになっていた。
Tシャツの首周りに、汗で大きな染みができていた。
もし、これが体育の授業とかだったら、「あ〜あの人汗っかきだー」とか思われるけど、ここだとなぜか全然恥ずかしくない。
むしろ、「見ろ」みたいな。
そして、「お前らも一緒に汗を掻け」みたいな。
正直言って、あたしはここに来てくれている人たちのことを、知らない。
名前も、どこに住んでいるのかということも、知らない。
みんなが、それぞれに本来の職場やら学校やらを持っている。
顔と顔を合わせて話したことなど、ほとんどが無い人たちばかりだ。
社会的枠組みで言えば、私たちは他人同士。
でも、今ここではそうは思わない。
みんなが一つの音楽のもとに、一つになっている。
今だけ、私たちは他人同士じゃない。
他人じゃないから、私たちは楽しむことができるんだ。
ファーストシングルをリリースしてからわずか8ヶ月、このわずかな時間で武道館ライブを実現させたという事実が、TOMOMIの実力を物語っていた。
アップテンポな曲でも、バラードな曲でも高いクオリティを魅せ、人々の心を惹き付けるTOMOMIの音楽は、それまでの様々な経験が育んだもの。
智美は宮崎県の海岸沿いの街に生まれ、高校時代までをそこで過ごした。
部屋の窓を開ければ海の匂いが香るほど、家は海から近かった。
智美にとって、海とは音楽の母である。
「同じ波は二度と来ない」とよくサーファーが言うけれど、智美は誰に教わったワケでもなく、小学校低学年の時にはそれをすでに知っていた。
短い波でも大きな波でも、どんな波でも音程とテンポは微妙に異なっていることを智美は身をもって知っていたのだ。
そして、人を癒す力を持った波の音を幼少時代から何万回、何十万回、何百万回と聴いてきたことが、今の智美の音楽の柱となっている。
高校時代にギターを手に入れてから、智美は自然と曲を作り始めた。どんどんと音楽が好きになるにつれ、音楽性は幅を広げ、次第にシンガーソングライターになるという夢を持つようになった。
大学は迷うことなく海に近い大学を選んだ。海から離れて暮らすことは息苦しさを感じそうで、絶対にできなかった。
大学に入ると、当初、智美は軽音部への入部を考えた。
だが、そこで智美はとまどいを感じた。
誰もが、有名な歌手の曲のコピーをすることだけで活動をしていたのだ。
彼らの多くは本気で音楽をしようと考えているわけではなく、ただ、大学時代を音楽で楽しむことだけを考えているように、智美の目には映った。
真面目に音楽をしたいと考えていた智美は、彼らとの間にモチベーションのギャップを感じたのだ。
もちろん、自分で曲を作る者も若干いたが、それは到底音楽と呼べるシロモノではなく、智美は「ここでは自分は成長できない」と悟った。
軽音部への入部を諦めた智美は、次に吹奏楽部を選んだ。
正解だった。
吹奏楽が奏でる壮大なサウンドは、智美が持つ音楽性に大きな刺激を与え、それまで持っていた音楽性と混じり合うことで、大きな成長を遂げた。
ただ、いい曲が描けるようになったとしても、まだ智美には満足できないことがあった。
詩である。
自分で作った曲に載せた自分の詩は、自分が無理やり心からひねり出した詩に過ぎず、本当に伝えたいことを書いているとは思えなかったのである。
そんな詩の世界観を変えたのは、あの悲しい事故だった。
智美は悩みに悩みぬくことで、様々なことを知った。
本当の自分の姿、普段感じていた心の不安、愛と呼ばれるもの、苦しみ、強がり、前向きになることの大切さ、人間が本来持つ本当の心の叫び等、様々な新しい感情が、智美の詩の世界観を塗り替えたのだ。
そして今、その様々な経験の集大成と呼べるTOMOMIの武道館ライブは、肩書き的には終演の時を迎えようとしていた。
最後の曲が終わると、観客たちはスタンディングオーベーションを行い、TOMOMIが奏でた音楽に対して多大な評価を下したことをステージ上にいる人々に伝えた。
「ありがとー!本当にありがとーございました〜〜〜!!!ばいば〜〜〜〜い!!」
笑顔で大きく手を振りながら、TOMOMIは舞台裏へと駆け足で消えていった。
バックバンドのメンバーも引き揚げて、ステージ上には誰もいなくなると、それまで館内を色鮮やかに照らしていた無数の照明がゆっくりとライトダウンされ、再び館内は開演時と似たような暗闇に包まれた。
だが、これはあくまで次に起こることを予想しての演出だ。
パチパチパチパチパチパチ!
暗闇に包まれても、館内のスタンディングオーベーションは鳴り止まず、熱気を帯びた雰囲気は収まらない。
そして、次第に17000人の手拍子が一つのリズムを刻みだし、館内に大きな声で一つの言葉が繰り返し響きはじめた。
「…アンコール!アンコール!アンコール!!アンコール!!アンコール!!アンコール!!!」
始めから予期していた事とはいえ、舞台裏でTOMOMIは観客からのその声に感動し、鳥肌がたった。
あまりの嬉しさに思わず涙が溢れそうになったが、まだ泣くのは早いとグッとこらえた。
「…よしっ!みんなまた大集合!」
TOMOMIは再びバックバンドのメンバーを集め、ぐっしょりと濡れたTシャツのままお互いの肩に手を回し、円陣を組んだ。
「アンコール!!アンコール!!アンコール!!アンコール!!!」
観客の呼ぶ声が、どんどんと大きくなっていく。
…よしっ!
「いいかお前らー!」
「おう!」
「ラストスパート、最後まで飛ばしていくぞー!」
「おう!」
「1,2,3、We are!!!」
気合を入れ直し、各メンバーは再びの登場に向け、スタンバイに入った。
「清田さん!!」
突然、舞台裏にプロデューサー・石川さんのあたしを呼ぶ声が響き渡った。
でも、あたしはギターを弾きながら唄っている最中で、目に入った汗を拭うことができなかった。
気付くと、あたしは汗まみれになっていた。
Tシャツの首周りに、汗で大きな染みができていた。
もし、これが体育の授業とかだったら、「あ〜あの人汗っかきだー」とか思われるけど、ここだとなぜか全然恥ずかしくない。
むしろ、「見ろ」みたいな。
そして、「お前らも一緒に汗を掻け」みたいな。
正直言って、あたしはここに来てくれている人たちのことを、知らない。
名前も、どこに住んでいるのかということも、知らない。
みんなが、それぞれに本来の職場やら学校やらを持っている。
顔と顔を合わせて話したことなど、ほとんどが無い人たちばかりだ。
社会的枠組みで言えば、私たちは他人同士。
でも、今ここではそうは思わない。
みんなが一つの音楽のもとに、一つになっている。
今だけ、私たちは他人同士じゃない。
他人じゃないから、私たちは楽しむことができるんだ。
ファーストシングルをリリースしてからわずか8ヶ月、このわずかな時間で武道館ライブを実現させたという事実が、TOMOMIの実力を物語っていた。
アップテンポな曲でも、バラードな曲でも高いクオリティを魅せ、人々の心を惹き付けるTOMOMIの音楽は、それまでの様々な経験が育んだもの。
智美は宮崎県の海岸沿いの街に生まれ、高校時代までをそこで過ごした。
部屋の窓を開ければ海の匂いが香るほど、家は海から近かった。
智美にとって、海とは音楽の母である。
「同じ波は二度と来ない」とよくサーファーが言うけれど、智美は誰に教わったワケでもなく、小学校低学年の時にはそれをすでに知っていた。
短い波でも大きな波でも、どんな波でも音程とテンポは微妙に異なっていることを智美は身をもって知っていたのだ。
そして、人を癒す力を持った波の音を幼少時代から何万回、何十万回、何百万回と聴いてきたことが、今の智美の音楽の柱となっている。
高校時代にギターを手に入れてから、智美は自然と曲を作り始めた。どんどんと音楽が好きになるにつれ、音楽性は幅を広げ、次第にシンガーソングライターになるという夢を持つようになった。
大学は迷うことなく海に近い大学を選んだ。海から離れて暮らすことは息苦しさを感じそうで、絶対にできなかった。
大学に入ると、当初、智美は軽音部への入部を考えた。
だが、そこで智美はとまどいを感じた。
誰もが、有名な歌手の曲のコピーをすることだけで活動をしていたのだ。
彼らの多くは本気で音楽をしようと考えているわけではなく、ただ、大学時代を音楽で楽しむことだけを考えているように、智美の目には映った。
真面目に音楽をしたいと考えていた智美は、彼らとの間にモチベーションのギャップを感じたのだ。
もちろん、自分で曲を作る者も若干いたが、それは到底音楽と呼べるシロモノではなく、智美は「ここでは自分は成長できない」と悟った。
軽音部への入部を諦めた智美は、次に吹奏楽部を選んだ。
正解だった。
吹奏楽が奏でる壮大なサウンドは、智美が持つ音楽性に大きな刺激を与え、それまで持っていた音楽性と混じり合うことで、大きな成長を遂げた。
ただ、いい曲が描けるようになったとしても、まだ智美には満足できないことがあった。
詩である。
自分で作った曲に載せた自分の詩は、自分が無理やり心からひねり出した詩に過ぎず、本当に伝えたいことを書いているとは思えなかったのである。
そんな詩の世界観を変えたのは、あの悲しい事故だった。
智美は悩みに悩みぬくことで、様々なことを知った。
本当の自分の姿、普段感じていた心の不安、愛と呼ばれるもの、苦しみ、強がり、前向きになることの大切さ、人間が本来持つ本当の心の叫び等、様々な新しい感情が、智美の詩の世界観を塗り替えたのだ。
そして今、その様々な経験の集大成と呼べるTOMOMIの武道館ライブは、肩書き的には終演の時を迎えようとしていた。
最後の曲が終わると、観客たちはスタンディングオーベーションを行い、TOMOMIが奏でた音楽に対して多大な評価を下したことをステージ上にいる人々に伝えた。
「ありがとー!本当にありがとーございました〜〜〜!!!ばいば〜〜〜〜い!!」
笑顔で大きく手を振りながら、TOMOMIは舞台裏へと駆け足で消えていった。
バックバンドのメンバーも引き揚げて、ステージ上には誰もいなくなると、それまで館内を色鮮やかに照らしていた無数の照明がゆっくりとライトダウンされ、再び館内は開演時と似たような暗闇に包まれた。
だが、これはあくまで次に起こることを予想しての演出だ。
パチパチパチパチパチパチ!
暗闇に包まれても、館内のスタンディングオーベーションは鳴り止まず、熱気を帯びた雰囲気は収まらない。
そして、次第に17000人の手拍子が一つのリズムを刻みだし、館内に大きな声で一つの言葉が繰り返し響きはじめた。
「…アンコール!アンコール!アンコール!!アンコール!!アンコール!!アンコール!!!」
始めから予期していた事とはいえ、舞台裏でTOMOMIは観客からのその声に感動し、鳥肌がたった。
あまりの嬉しさに思わず涙が溢れそうになったが、まだ泣くのは早いとグッとこらえた。
「…よしっ!みんなまた大集合!」
TOMOMIは再びバックバンドのメンバーを集め、ぐっしょりと濡れたTシャツのままお互いの肩に手を回し、円陣を組んだ。
「アンコール!!アンコール!!アンコール!!アンコール!!!」
観客の呼ぶ声が、どんどんと大きくなっていく。
…よしっ!
「いいかお前らー!」
「おう!」
「ラストスパート、最後まで飛ばしていくぞー!」
「おう!」
「1,2,3、We are!!!」
気合を入れ直し、各メンバーは再びの登場に向け、スタンバイに入った。
「清田さん!!」
突然、舞台裏にプロデューサー・石川さんのあたしを呼ぶ声が響き渡った。
#43 アイマスク
- 2008-07-11 (Fri)
- 小説 神様のロトリー
「どうなさいましたか!?」
一人の医者が、直哉の病室へと駆け込んできた。
「あ、先生!直哉が、直哉が目を覚まして……!」
その医者は、目をギュっとつむり、そして大きくむせ込む直哉を見てすぐに状況を理解したようで、そばにいた看護士に指示を出した。
「部屋の電気を消して!あとアイマスクと水を用意して!私は牧野先生を呼んで来ます!」
「は、はい!分かりました!」
看護士によって部屋の電気が消され、真っ暗になった病室の中、直哉にはアイマスクが着けられた。
一年もの間、視神経と声帯を使っていなかった直哉にとっては、部屋の蛍光灯という灯りでさえも、強すぎる刺激であった。眼球を傷つけないため、直哉にはアイマスクが装着された。同時に声帯も弱っており、通常レベルまでに声を戻すまでには、少し時間が必要だった。
「木下さん!?木下直哉さん!?私の声が聞こえますか!?聞こえましたら、私の手を握ってください!」
左手を看護士に握られ、直哉は未だに酷くむせ込むまま、言葉通りに看護士の手を力強く握り返した。
直哉の意識レベルを確認した看護士は、用意したコップに入った水をスポイトで少量だけ取り、直哉の口元に近づけ、言った。
「木下直哉さん!水です!飲めますか?少しだけお口を開けられますか?」
直哉は少しだけ口を開け、看護士はその中にスポイトで数滴だけ水を垂らした。
わずか数滴の水だが、それは直哉の口の中と咽を十分に潤し、直哉は冷静さを取り戻した。
「ほっ…」
落ち着いた様子の直哉を見て、両親と看護士も胸を撫で下ろし、再び病室内には喜ぶ声が上がり始めた。
父親の喜ぶ声、看護士に対してお礼を言う母親の声、そして、両親と同じように喜ぶ看護士の声、彼らの言葉を聞いて、直哉はある程度の状況を理解することができた。
ここは…病院か…あ、そうか、俺、確か事故って…意識失って……あっ!!そうだっ智美!!智美は!?…え?あ、いや、てか、なんで智美の歌声が聴こえるんだ??なんだこりゃ??どうなってるんだ??……どのくらい俺は寝てたんだ…?
「あ゛の…ね゛え゛……??」
だめだ…どうも咽がおかしくて、上手く声が出せない…
「あー木下直哉さん、今はまだ声は出さない方が良いですよー!大丈夫ですよー、直に声は元に戻りますからねー!」
優しい口調の看護士の声で直哉は声を出すことは止めたが、代わって、智美の歌声が聴こえる方角を、左手の人差し指で指差した。
直哉はこの病室に流れる智美の歌声を不思議に思っているのだと悟った母親は、微笑みながら直哉に言った。
「あのね、直哉。しっかり聞いてね。今日は、2009年の3月26日。直哉が意識を失ってから、明日でちょうど一年でした。一緒に車に乗ってた智美ちゃんの事が気になってるんでしょ?大丈夫だよ。智美ちゃんはね、あれからすぐに元気になって、しっかり歌手の道を歩んでるよ。今も智美ちゃんの唄が聴こえるでしょ?これはね…なんと、今ね、智美ちゃんは武道館でライブをしてる最中なんだ。それのラジオ生放送!」
………一年…そんなに…!?………智美が…武道館ライブ…!?…あ…
直哉は思い出した。
一年前、あの山で、智美は自分の夢は武道館でライブをすることだと空に向かって叫んでいた。
あの時の記憶が、直哉の頭の中に蘇る。
そうか…智美…夢…叶えたんだね…。
「直哉、右手で何かを握ってるのが分かる?」
母は直哉に訊いた。
え?…右手…あ、ホントだ…これは…紙…?
喋れない直哉は、小さく頷くことで返事をした。
「それね…智美ちゃんの武道館ライブのチケットなんだよ。智美ちゃんがね、昨日の夜にわざわざ直哉のために持ってきてくれたんだよ。感謝しなさいよーあんた。ずーーーっと、ず〜〜〜〜〜っと、智美ちゃんに大切に想われてたんだから」
ライブのチケット…これが…?あ、そうか、そういえば俺言った気がするな、「智美が武道館でライブをする時は、一番良い席のチケット頂戴ね」って。………はは、智美、ちゃんと覚えててくれたんだ。相変わらず律儀というかなんというか…はは、……ホントありがとうですな、智美」
微笑みながら、直哉は右手を握り締めた。
病室に流れる智美の歌声、ライブのチケット、暖かい人々、そのすべてが直哉の心を打ち、アイマスクの下でこっそり直哉は涙を浮かべた。
♪〜〜〜〜〜♪〜〜〜〜〜〜♪〜〜
ほほう…ちょっと智美、唄上手くなったんじゃん?…あー、やっぱりこの声聴いてると、なんか落ち着くなぁー……
「それでね直哉!あんた寝てる間に友達がいっぱい見舞いに来てくれたんだから!もう毎日毎日ほんとにいっぱいこれでもかってくらいに来てくれてさ!あんたが今こうやって起きれたのはみんなのおかげなんだからね!ホント後で感謝しなさ…」
……いや、お母さん…ちょっとうるさいかな(汗)……智美の唄が…聴こえない(汗)…
一人の医者が、直哉の病室へと駆け込んできた。
「あ、先生!直哉が、直哉が目を覚まして……!」
その医者は、目をギュっとつむり、そして大きくむせ込む直哉を見てすぐに状況を理解したようで、そばにいた看護士に指示を出した。
「部屋の電気を消して!あとアイマスクと水を用意して!私は牧野先生を呼んで来ます!」
「は、はい!分かりました!」
看護士によって部屋の電気が消され、真っ暗になった病室の中、直哉にはアイマスクが着けられた。
一年もの間、視神経と声帯を使っていなかった直哉にとっては、部屋の蛍光灯という灯りでさえも、強すぎる刺激であった。眼球を傷つけないため、直哉にはアイマスクが装着された。同時に声帯も弱っており、通常レベルまでに声を戻すまでには、少し時間が必要だった。
「木下さん!?木下直哉さん!?私の声が聞こえますか!?聞こえましたら、私の手を握ってください!」
左手を看護士に握られ、直哉は未だに酷くむせ込むまま、言葉通りに看護士の手を力強く握り返した。
直哉の意識レベルを確認した看護士は、用意したコップに入った水をスポイトで少量だけ取り、直哉の口元に近づけ、言った。
「木下直哉さん!水です!飲めますか?少しだけお口を開けられますか?」
直哉は少しだけ口を開け、看護士はその中にスポイトで数滴だけ水を垂らした。
わずか数滴の水だが、それは直哉の口の中と咽を十分に潤し、直哉は冷静さを取り戻した。
「ほっ…」
落ち着いた様子の直哉を見て、両親と看護士も胸を撫で下ろし、再び病室内には喜ぶ声が上がり始めた。
父親の喜ぶ声、看護士に対してお礼を言う母親の声、そして、両親と同じように喜ぶ看護士の声、彼らの言葉を聞いて、直哉はある程度の状況を理解することができた。
ここは…病院か…あ、そうか、俺、確か事故って…意識失って……あっ!!そうだっ智美!!智美は!?…え?あ、いや、てか、なんで智美の歌声が聴こえるんだ??なんだこりゃ??どうなってるんだ??……どのくらい俺は寝てたんだ…?
「あ゛の…ね゛え゛……??」
だめだ…どうも咽がおかしくて、上手く声が出せない…
「あー木下直哉さん、今はまだ声は出さない方が良いですよー!大丈夫ですよー、直に声は元に戻りますからねー!」
優しい口調の看護士の声で直哉は声を出すことは止めたが、代わって、智美の歌声が聴こえる方角を、左手の人差し指で指差した。
直哉はこの病室に流れる智美の歌声を不思議に思っているのだと悟った母親は、微笑みながら直哉に言った。
「あのね、直哉。しっかり聞いてね。今日は、2009年の3月26日。直哉が意識を失ってから、明日でちょうど一年でした。一緒に車に乗ってた智美ちゃんの事が気になってるんでしょ?大丈夫だよ。智美ちゃんはね、あれからすぐに元気になって、しっかり歌手の道を歩んでるよ。今も智美ちゃんの唄が聴こえるでしょ?これはね…なんと、今ね、智美ちゃんは武道館でライブをしてる最中なんだ。それのラジオ生放送!」
………一年…そんなに…!?………智美が…武道館ライブ…!?…あ…
直哉は思い出した。
一年前、あの山で、智美は自分の夢は武道館でライブをすることだと空に向かって叫んでいた。
あの時の記憶が、直哉の頭の中に蘇る。
そうか…智美…夢…叶えたんだね…。
「直哉、右手で何かを握ってるのが分かる?」
母は直哉に訊いた。
え?…右手…あ、ホントだ…これは…紙…?
喋れない直哉は、小さく頷くことで返事をした。
「それね…智美ちゃんの武道館ライブのチケットなんだよ。智美ちゃんがね、昨日の夜にわざわざ直哉のために持ってきてくれたんだよ。感謝しなさいよーあんた。ずーーーっと、ず〜〜〜〜〜っと、智美ちゃんに大切に想われてたんだから」
ライブのチケット…これが…?あ、そうか、そういえば俺言った気がするな、「智美が武道館でライブをする時は、一番良い席のチケット頂戴ね」って。………はは、智美、ちゃんと覚えててくれたんだ。相変わらず律儀というかなんというか…はは、……ホントありがとうですな、智美」
微笑みながら、直哉は右手を握り締めた。
病室に流れる智美の歌声、ライブのチケット、暖かい人々、そのすべてが直哉の心を打ち、アイマスクの下でこっそり直哉は涙を浮かべた。
♪〜〜〜〜〜♪〜〜〜〜〜〜♪〜〜
ほほう…ちょっと智美、唄上手くなったんじゃん?…あー、やっぱりこの声聴いてると、なんか落ち着くなぁー……
「それでね直哉!あんた寝てる間に友達がいっぱい見舞いに来てくれたんだから!もう毎日毎日ほんとにいっぱいこれでもかってくらいに来てくれてさ!あんたが今こうやって起きれたのはみんなのおかげなんだからね!ホント後で感謝しなさ…」
……いや、お母さん…ちょっとうるさいかな(汗)……智美の唄が…聴こえない(汗)…
#42 日本武道館
- 2008-07-10 (Thu)
- 小説 神様のロトリー
前から、右から、左から、そして上からも聴こえるあたしを包み込む大きな歓声に、少し圧倒されそうになる。
17000人が出す声に負けまいと、あたしも声を一生懸命絞り出す。
見渡す限りに人の顔。みんながあたしを見ているのが分かる。なんだろう、この感覚。ライブが始まる前はこんなに大勢の人の視線は怖いと考えていたけど、それは違った。みんなの視線が、あたしの心臓の鼓動を早まらせ、それがまるでドラッグの様にあたしを酔わせる。
あたしに向けて挙げられている無数の手。
二階席と三階席という人の壁。
館内を包む熱気。
照明の暑さ、眩しさ。
バックバンドが奏でる音楽。
今、ここにあるモノすべてが、あたしの心を躍らせてくれる。
どんどんどんどん、熱い何かに引き込まれていく。心地よくて、目眩がしそうで、自分の体がこの武道館を包む雰囲気の中に溶けていってしまいそうだ。ずっと感じていたい、ずっとここにいたい。みんなの声があたしにパワーを与えてくれる。あたしも、ここにいるすべてのみんなに躍動を感じて欲しくて、我を忘れてがむしゃらに唄う。言葉ではとても言い表せぬ、この一体感。
最前列、ど真ん中にあるたった一つだけの空席。どうしても、唄っている最中に何度も視線がそこへ行ってしまう。居る訳ないのに、なぜかそこに彼が座っていてあたしの唄を聴いているような、そんな気がしてしまう。あたしの想いが創らせた幻想だなんてコトは分かってる。でも、何かをそこから感じるんだ。
…ねぇ直哉、あたしの声、聴こえる?ちゃんと届いてる?あたしね、今、夢を叶えてるよ。
一曲目の「Crazy Action」が終わり、ライブは間髪を入れずに二曲目に突入した。観客たちの熱気も冷めることなく、大きな歓声をTOMOMIに浴びせ続ける。
この武道館を包む雰囲気を、本当は直哉とも一緒に感じたかった。あたし……………ね、へへ。今、あたしかっこいいかな?どうかな?ねぇ、どう思う?
元every many thingsの持田さん、事故の際に智美と直哉を助けたライダー達、智美と直哉の友達たち、智美の両親など、智美の過去を知る人達もこの武道館に駆けつけていた。彼らは他の観客達と同様にはしゃいで智美を応援するということはなく、ただ、静かに智美の勇姿を目に焼き付けていた。
興奮と熱気で包まれたまま二曲目が終了し、ライブはTOMOMIのMCに突入した。
「こんばんはーー!TOMOMIで〜〜〜〜す!」
ワ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!パチパチパチ…
満面の笑顔で手を振って挨拶をしたTOMOMIを、観客達は歓声と拍手で歓迎した。
「えー…へへ、今日、私初めての全国ツアー初日を、こうして日本武道館という場所で迎えられたことを、えー…本当に光栄に思っています!それも応援してくれている皆さんのおかげです!本当にありがとう!!」
ワ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!パチパチパチ…
「それと…えー…本日この私の武道館ライブは、全国33のFM放送局でも生放送されています。本当に、本当に多くの皆さんに私の曲を聴いてくれることを、嬉しく思っています。実は、あのー、このラジオ放送は私が提案して、そして多くの人々の助けを借りて、実現させていただきました。この場をお借りして、私の無理なお願いに協力してくださった方々全員に、厚くお礼を申し上げます。本当にありがとうございます」
ワ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!パチパチパチ…
「えっと…、なぜ今回、私がラジオ放送を提案したかと言いますとですね……より多くの方に私の曲を聴いて欲しいという気持ちがあったのと……あとですね、…どうしても、どうしても私の曲をですね、ここには来れないある方に聴かせたくて、それで今回本当に無理な提案をしました。………………えー、ニッポン全国の皆さん!!私の声、ちゃんと聴こえてますかー!!!???」
ワ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!
「まだまだ、まだまだ、ライブはここからが本番ですよー!!最後まで、最後までーー!TOMOMI武道館ライブに付き合ってくれますかーーー!!??」
ワ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!
「よっしゃー!じゃあ、次の曲!!耳の穴かっぽじって、よく聴け〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
ワ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!
何も見えない。
何も聴こえない。
ここは暗黒に閉ざされた、無の空間。
もうどのくらい彷徨い歩いただろう…それさえも分からない…。
なんで俺はこんなトコにいるんだろう…帰りたいよ…。
…ん?なんだあれ…?
ふと、遠くの方で何かが光った。
寂しさに耐え切れず、俺は光に向かって無我夢中で走った。
走って、走って、息を切らして、また必死に走って、俺は光に追いついた。
はぁ…はぁ…なんでこんなトコにパイプ椅子が…?
暗黒の世界の中、俺は一脚の光るパイプ椅子を見つけた。
暖かい…なんだか知らないけど、このパイプ椅子…とても暖かい…。
俺は、この不思議なパイプ椅子が放つ暖かい誘惑に負けて、ゆっくりとその椅子に座った。
「…にっぽん…こく…なさん…………たしのこえ……きこえ……すか……」
…?
「まだ…だ……らいぶ………がほんばんです……」
ん…智美………?
「さいごま……いごま……ともみぶどうかんらいぶ…くれ…すか……」
…どこにいるの……?…近くにいるの……?…なに言ってんの……?助けて…
「よっしゃ…ぎの曲、耳の穴かっぽじって、よく聴け〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
…はあ?耳の穴かっぽじってって……そこにいるの?智美―?
2009年 3月26日 PM6:22 伊豆総合病院 外科病棟316号室
ベッドの上で、木下直哉は意識を取り戻した。
静かにその目を開けようとしたが、天井にある蛍光灯の光が余りにも眩しくて、目を開けることが出来ず、思わず「眩しい」という言葉を発そうとしたけれど、なぜか咽がカラカラで喋ることができず、ただ、思いっきりむせた。
直哉の両親は焦った。
さっきまで、ただ穏やかに眠っていたはずの息子が突然大きな声を上げてむせはじめたからだ。でも、直哉の意識が戻ったということが分かると、二人とも我を忘れて喜び、母はベッド横にあるナースコールを連打し、父は待ちきれずにナースセンターへと走った。
「ゴホッ!ゲホッ!ゴホゴッホッ!……?」
大きくむせて息苦しい中、直哉は気付いた。
智美の歌声が…聴こえる…?
なんでかは分からないけど、直哉はなんとなく、ただ、そっと微笑んだ。
17000人が出す声に負けまいと、あたしも声を一生懸命絞り出す。
見渡す限りに人の顔。みんながあたしを見ているのが分かる。なんだろう、この感覚。ライブが始まる前はこんなに大勢の人の視線は怖いと考えていたけど、それは違った。みんなの視線が、あたしの心臓の鼓動を早まらせ、それがまるでドラッグの様にあたしを酔わせる。
あたしに向けて挙げられている無数の手。
二階席と三階席という人の壁。
館内を包む熱気。
照明の暑さ、眩しさ。
バックバンドが奏でる音楽。
今、ここにあるモノすべてが、あたしの心を躍らせてくれる。
どんどんどんどん、熱い何かに引き込まれていく。心地よくて、目眩がしそうで、自分の体がこの武道館を包む雰囲気の中に溶けていってしまいそうだ。ずっと感じていたい、ずっとここにいたい。みんなの声があたしにパワーを与えてくれる。あたしも、ここにいるすべてのみんなに躍動を感じて欲しくて、我を忘れてがむしゃらに唄う。言葉ではとても言い表せぬ、この一体感。
最前列、ど真ん中にあるたった一つだけの空席。どうしても、唄っている最中に何度も視線がそこへ行ってしまう。居る訳ないのに、なぜかそこに彼が座っていてあたしの唄を聴いているような、そんな気がしてしまう。あたしの想いが創らせた幻想だなんてコトは分かってる。でも、何かをそこから感じるんだ。
…ねぇ直哉、あたしの声、聴こえる?ちゃんと届いてる?あたしね、今、夢を叶えてるよ。
一曲目の「Crazy Action」が終わり、ライブは間髪を入れずに二曲目に突入した。観客たちの熱気も冷めることなく、大きな歓声をTOMOMIに浴びせ続ける。
この武道館を包む雰囲気を、本当は直哉とも一緒に感じたかった。あたし……………ね、へへ。今、あたしかっこいいかな?どうかな?ねぇ、どう思う?
元every many thingsの持田さん、事故の際に智美と直哉を助けたライダー達、智美と直哉の友達たち、智美の両親など、智美の過去を知る人達もこの武道館に駆けつけていた。彼らは他の観客達と同様にはしゃいで智美を応援するということはなく、ただ、静かに智美の勇姿を目に焼き付けていた。
興奮と熱気で包まれたまま二曲目が終了し、ライブはTOMOMIのMCに突入した。
「こんばんはーー!TOMOMIで〜〜〜〜す!」
ワ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!パチパチパチ…
満面の笑顔で手を振って挨拶をしたTOMOMIを、観客達は歓声と拍手で歓迎した。
「えー…へへ、今日、私初めての全国ツアー初日を、こうして日本武道館という場所で迎えられたことを、えー…本当に光栄に思っています!それも応援してくれている皆さんのおかげです!本当にありがとう!!」
ワ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!パチパチパチ…
「それと…えー…本日この私の武道館ライブは、全国33のFM放送局でも生放送されています。本当に、本当に多くの皆さんに私の曲を聴いてくれることを、嬉しく思っています。実は、あのー、このラジオ放送は私が提案して、そして多くの人々の助けを借りて、実現させていただきました。この場をお借りして、私の無理なお願いに協力してくださった方々全員に、厚くお礼を申し上げます。本当にありがとうございます」
ワ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!パチパチパチ…
「えっと…、なぜ今回、私がラジオ放送を提案したかと言いますとですね……より多くの方に私の曲を聴いて欲しいという気持ちがあったのと……あとですね、…どうしても、どうしても私の曲をですね、ここには来れないある方に聴かせたくて、それで今回本当に無理な提案をしました。………………えー、ニッポン全国の皆さん!!私の声、ちゃんと聴こえてますかー!!!???」
ワ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!
「まだまだ、まだまだ、ライブはここからが本番ですよー!!最後まで、最後までーー!TOMOMI武道館ライブに付き合ってくれますかーーー!!??」
ワ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!
「よっしゃー!じゃあ、次の曲!!耳の穴かっぽじって、よく聴け〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
ワ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!
何も見えない。
何も聴こえない。
ここは暗黒に閉ざされた、無の空間。
もうどのくらい彷徨い歩いただろう…それさえも分からない…。
なんで俺はこんなトコにいるんだろう…帰りたいよ…。
…ん?なんだあれ…?
ふと、遠くの方で何かが光った。
寂しさに耐え切れず、俺は光に向かって無我夢中で走った。
走って、走って、息を切らして、また必死に走って、俺は光に追いついた。
はぁ…はぁ…なんでこんなトコにパイプ椅子が…?
暗黒の世界の中、俺は一脚の光るパイプ椅子を見つけた。
暖かい…なんだか知らないけど、このパイプ椅子…とても暖かい…。
俺は、この不思議なパイプ椅子が放つ暖かい誘惑に負けて、ゆっくりとその椅子に座った。
「…にっぽん…こく…なさん…………たしのこえ……きこえ……すか……」
…?
「まだ…だ……らいぶ………がほんばんです……」
ん…智美………?
「さいごま……いごま……ともみぶどうかんらいぶ…くれ…すか……」
…どこにいるの……?…近くにいるの……?…なに言ってんの……?助けて…
「よっしゃ…ぎの曲、耳の穴かっぽじって、よく聴け〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
…はあ?耳の穴かっぽじってって……そこにいるの?智美―?
2009年 3月26日 PM6:22 伊豆総合病院 外科病棟316号室
ベッドの上で、木下直哉は意識を取り戻した。
静かにその目を開けようとしたが、天井にある蛍光灯の光が余りにも眩しくて、目を開けることが出来ず、思わず「眩しい」という言葉を発そうとしたけれど、なぜか咽がカラカラで喋ることができず、ただ、思いっきりむせた。
直哉の両親は焦った。
さっきまで、ただ穏やかに眠っていたはずの息子が突然大きな声を上げてむせはじめたからだ。でも、直哉の意識が戻ったということが分かると、二人とも我を忘れて喜び、母はベッド横にあるナースコールを連打し、父は待ちきれずにナースセンターへと走った。
「ゴホッ!ゲホッ!ゴホゴッホッ!……?」
大きくむせて息苦しい中、直哉は気付いた。
智美の歌声が…聴こえる…?
なんでかは分からないけど、直哉はなんとなく、ただ、そっと微笑んだ。
#41 空席
- 2008-07-05 (Sat)
- 小説 神様のロトリー
3月26日 PM5:55 武道館・ステージ舞台裏廊下
「開演5分前でーす!スタンバイお願いしまーす!!」
スタッフの大きな声が廊下に響き渡った。
「…………………よしっ!みんな!大集合!!」
智美は一緒に演奏をするバックバンドのメンバーを集め、お互いの肩に手を回し、円陣を組んだ。
「TOMOMIさん!ここは一発ビシッと締めちゃって!」
ベースのタクヤが智美にそう言った。
智美はゆっくりと目をつむった。今までの記憶が頭の中を駆け巡る。
楽しかったことも、苦しかったことも、嬉しかったことも、悲しかったことも、すべては今日この日に繋がっていた。そして、またここで新しい一歩を進める。
……おしっ!
智美は目を見開いた。
「いいかお前らー!」
「おう!」
「6対17000だと思うなー!」
「おう!」
「あくまでライブは1対1だ!ビビんじゃねえぞ!」
「おう!!」
「よしっ!お前ら行くぞー!」
「1,2,3、We are!!!」
ここは、多くの人に認められた、限られた者しか唄うことの許されない場所。
日本で唄うことを生業としている者にとって、誰もが一度は夢見る場所。
17000人もの人々が埋め尽くした日本武道館。
人々は携帯電話や腕時計で今現在の時間を確認して、いまかいまかと開演の時を待つ。
17000人の話し声でざわざわした館内を一気にシーンと静めたのは、一斉のライトダウンだった。
真っ暗になった館内。
さっきのざわめきが嘘のように静まり返った館内。
ステージ上の大型スクリーンに幾何学模様の絵が映り、七色に輝く無数のビームライトが館内を縦横無尽に照らし始めると、その神秘的な空間に人々はおもわず声をあげて、それが一つになり歓声と化す。
幻想的なBGMが流れ出し、次第にその音が段々大きくなると、ステージ上の大型スクリーンに大きな文字が現れた。
2009 TOMOMI JAPAN TOUR
ARE YOU READY?
「ワアアアアアアアアアアアアア〜〜!!!!!」
人々は一斉に立ち上がり、雄叫びとも言える歓声を館内に轟かせた。そのあまりもの大きな声にパイプ椅子が反響してビリビリと振動している。
10
9
8
スクリーン上に現れた数字がカウントダウンだと分かると、人々は声をそろえて数字を読み上げ、ライブの主役の登場を待ちわびる。
「7!!」
「6!!」
「5!!!」
「4!!!!」
「3!!!!!」
スクリーン上に映りだす数字が0に近づくにつれて、人々の声も段々大きくなってゆく。
「2!!!!!」
「1!!!!!!」
START
一瞬の静寂を置いて、ドラムのコージがリズム良くスネアドラムを4度叩くと、金色に輝く2つのスポットライトがステージ中央を照らし出した。
ライトが照らし出す先には、闇に紛れて誰にも気付かれずに登場していたTOMOMIがいて、観客は彼女の存在を視認するやいなや、大きな歓声をあげた。
最初の曲は「Crazy Action」。
ファーストアルバムの一曲目にも使われている曲で、アップテンポな曲調が場を盛り上げるのに最適な曲だ。
エレキギター・ベース・エレクトーン・ドラムが出す音が、大型スピーカーから館内中を駆け巡るように響き渡る。CDでは味わえない壮大なサウンドが、観客の腹をビリビリと振動させる。
イントロに続き、ライトに照らされ金色に光り輝くTOMOMIが、左手を横に大きく広げて大きな声で唄いだした。TOMOMIの声が館内に響くと、観客たちは少しばかりその歌声に聞き入るために、それまで大きくあげていた歓声を弱らせ、ただ、その視線をTOMOMIに向け集中させる。
「Crazy Action」はサビから始まる曲だ。TOMOMIは最初からギアをトップに持っていき、最高にたくましい笑顔をしながら、最高にたくましい声でサビを唄う。
やがて最初のサビが終わると、それまでTOMOMIだけを照らした館内の照明は、ステージ上の天井、また観客席の天井に無数にある白・水色・黄色・オレンジなど、淡い色のライトが一斉に館内を縦横無尽に照らしだし、その壮大な演出が観客たちの心を盛り上げる。
そして更に、TOMOMIの「イエ〜〜〜〜〜〜〜!」という雄たけびと共に、観客席の天井から何万枚ものピンク色の紙吹雪が一斉に舞い落ちてきた。
ライトに照らされキラキラと光り輝く紙ふぶきは、まるで壮大な桜の花吹雪のように観客を覆い尽くすように降り注ぐ。
光り輝きながら降り注ぐ紙吹雪、壮大なサウンド、TOMOMIの歌声が館内の雰囲気を最初から最高潮に盛り上げ、観客たちは一斉に叫び声にも似た歓声をあげた。
ただ、光り輝きながら無数に舞い落ちるピンク色の紙吹雪の中に、本物の大きな桜の花びらが一枚だけ、どこからか紛れ込み、それがひらひらと他の紙吹雪たちと一緒に舞い落ちて、人で埋め尽くしたこの武道館の中で、最前列の真ん中にあるたった一つだけの空席の上にそっと降り立ったことには、誰も気が付かなかった。
「開演5分前でーす!スタンバイお願いしまーす!!」
スタッフの大きな声が廊下に響き渡った。
「…………………よしっ!みんな!大集合!!」
智美は一緒に演奏をするバックバンドのメンバーを集め、お互いの肩に手を回し、円陣を組んだ。
「TOMOMIさん!ここは一発ビシッと締めちゃって!」
ベースのタクヤが智美にそう言った。
智美はゆっくりと目をつむった。今までの記憶が頭の中を駆け巡る。
楽しかったことも、苦しかったことも、嬉しかったことも、悲しかったことも、すべては今日この日に繋がっていた。そして、またここで新しい一歩を進める。
……おしっ!
智美は目を見開いた。
「いいかお前らー!」
「おう!」
「6対17000だと思うなー!」
「おう!」
「あくまでライブは1対1だ!ビビんじゃねえぞ!」
「おう!!」
「よしっ!お前ら行くぞー!」
「1,2,3、We are!!!」
ここは、多くの人に認められた、限られた者しか唄うことの許されない場所。
日本で唄うことを生業としている者にとって、誰もが一度は夢見る場所。
17000人もの人々が埋め尽くした日本武道館。
人々は携帯電話や腕時計で今現在の時間を確認して、いまかいまかと開演の時を待つ。
17000人の話し声でざわざわした館内を一気にシーンと静めたのは、一斉のライトダウンだった。
真っ暗になった館内。
さっきのざわめきが嘘のように静まり返った館内。
ステージ上の大型スクリーンに幾何学模様の絵が映り、七色に輝く無数のビームライトが館内を縦横無尽に照らし始めると、その神秘的な空間に人々はおもわず声をあげて、それが一つになり歓声と化す。
幻想的なBGMが流れ出し、次第にその音が段々大きくなると、ステージ上の大型スクリーンに大きな文字が現れた。
2009 TOMOMI JAPAN TOUR
ARE YOU READY?
「ワアアアアアアアアアアアアア〜〜!!!!!」
人々は一斉に立ち上がり、雄叫びとも言える歓声を館内に轟かせた。そのあまりもの大きな声にパイプ椅子が反響してビリビリと振動している。
10
9
8
スクリーン上に現れた数字がカウントダウンだと分かると、人々は声をそろえて数字を読み上げ、ライブの主役の登場を待ちわびる。
「7!!」
「6!!」
「5!!!」
「4!!!!」
「3!!!!!」
スクリーン上に映りだす数字が0に近づくにつれて、人々の声も段々大きくなってゆく。
「2!!!!!」
「1!!!!!!」
START
一瞬の静寂を置いて、ドラムのコージがリズム良くスネアドラムを4度叩くと、金色に輝く2つのスポットライトがステージ中央を照らし出した。
ライトが照らし出す先には、闇に紛れて誰にも気付かれずに登場していたTOMOMIがいて、観客は彼女の存在を視認するやいなや、大きな歓声をあげた。
最初の曲は「Crazy Action」。
ファーストアルバムの一曲目にも使われている曲で、アップテンポな曲調が場を盛り上げるのに最適な曲だ。
エレキギター・ベース・エレクトーン・ドラムが出す音が、大型スピーカーから館内中を駆け巡るように響き渡る。CDでは味わえない壮大なサウンドが、観客の腹をビリビリと振動させる。
イントロに続き、ライトに照らされ金色に光り輝くTOMOMIが、左手を横に大きく広げて大きな声で唄いだした。TOMOMIの声が館内に響くと、観客たちは少しばかりその歌声に聞き入るために、それまで大きくあげていた歓声を弱らせ、ただ、その視線をTOMOMIに向け集中させる。
「Crazy Action」はサビから始まる曲だ。TOMOMIは最初からギアをトップに持っていき、最高にたくましい笑顔をしながら、最高にたくましい声でサビを唄う。
やがて最初のサビが終わると、それまでTOMOMIだけを照らした館内の照明は、ステージ上の天井、また観客席の天井に無数にある白・水色・黄色・オレンジなど、淡い色のライトが一斉に館内を縦横無尽に照らしだし、その壮大な演出が観客たちの心を盛り上げる。
そして更に、TOMOMIの「イエ〜〜〜〜〜〜〜!」という雄たけびと共に、観客席の天井から何万枚ものピンク色の紙吹雪が一斉に舞い落ちてきた。
ライトに照らされキラキラと光り輝く紙ふぶきは、まるで壮大な桜の花吹雪のように観客を覆い尽くすように降り注ぐ。
光り輝きながら降り注ぐ紙吹雪、壮大なサウンド、TOMOMIの歌声が館内の雰囲気を最初から最高潮に盛り上げ、観客たちは一斉に叫び声にも似た歓声をあげた。
ただ、光り輝きながら無数に舞い落ちるピンク色の紙吹雪の中に、本物の大きな桜の花びらが一枚だけ、どこからか紛れ込み、それがひらひらと他の紙吹雪たちと一緒に舞い落ちて、人で埋め尽くしたこの武道館の中で、最前列の真ん中にあるたった一つだけの空席の上にそっと降り立ったことには、誰も気が付かなかった。
#40 3月26日
- 2008-07-04 (Fri)
- 小説 神様のロトリー
「ソレデワ、ライシュウミナサンハッピョウデスヨ。ワスレズニヤッテキテクダサイネ」
キーンコーンカーンコーン…キーンコーンカーンコーン…
「Oh…キョウノコウギワコレデfinishデス。ミナサン、See you next week. Have a good weekend.」
英語講師のロバートから出された宿題とは、隣の人と協力して英語の曲を英語で紹介するというものだった。その授業の時、たまたま隣の席にいた人は、まだ一度も会話をしたことのない、よく日焼けした長身の男の子だった。
「……………………………………」
二人の間に、初対面特有の重い沈黙が流れる。
「あ……ねぇ、なんか洋楽のCDとか持ってる?」
その男の子が、二人の間に漂う重い空気を切り裂くように、あたしに話しかけてきた。
「え?…………あ、いや………持ってないなぁ…」
あたしは、いかにもそっけない感じで言葉を返した。
どうせなら、こういう宿題は仲の良い女友達と組みたかった。
宿題という共通の目的のために、一時的に話すようにはなるが、まだお互いが完全な友達という関係になる前にその宿題が終わってしまえば、その後、二人が会話をする必要性は薄まる。その二人が男女なら尚更だ。二人の関係は友達とは言いきれないギクシャクした状態が続き、その後、大学内で顔を合わせるとなぜか気まずい雰囲気になってしまう。
あたしは、そういうのが苦手だ。
「じゃあさ、洋楽じゃあないんだけど、オレ今ちょうど英語で歌ってる歌手のCD一枚持ってるんだけどさ、これにしない?」
「え?」
その男の子は、カバンの中をゴソゴソとあさって、中から一枚のCDを取り出し、あたしに差し出した。
え…えと?…える、どっと、えー、どっと、スカッシュ?……?エルエースカッシュ?ロサンゼルススカッシュ?…なんて読むんだこれ?
あたしはL.A.SQUASHのa bottle of worldsというCDをその男の子から受け取った…が、歌手名がなんと読むのかいまいちよく分からない。それにしても、このCD…ジャケットがかっこよく見せようとしたのか、非常にこっている。うん、確かにジャケットはかっこいい。なんか洋楽の雰囲気を感じる。
「へぇ…これ洋楽じゃないんだ?」
あたしは彼に訊いた。
「うん、それ日本のインディーズのバンドなんだけどさ、オレ結構好きなんだ。聴いてみてよ」
彼は自信満々に微笑みながらそう答えた。
「え?あ、うん……」
あぁ…インディーズかぁ。通りで知らないわけだ。たまに良いのはあるけど、結構はずれが多いんだよね…。ま、別に宿題だからなんでもいいんだけど。
さっきまでしていたこの英語の講義は、パソコン教室で行われているため、今、自分の目の前にはヘッドホン付属のパソコンがある。
あたしはCDをパソコンにセットし、ヘッドホンを頭に掛け、画面上の再生ボタンをクリックした。
♪so I say~ can you listen to her pain voice~♪
お?
♪so I say ~ can you do something to help for her~♪
おお。中々良いかも。
ヘッドホンから流れてきたメロディは、とても澄んだ声をしている女性ボーカルと音楽理論に捕らわれていない特徴のあるテンポが印象的な曲で、聴いていて気持ちが良い唄だった。
♪〜〜〜〜〜♪〜〜〜〜〜〜♪〜〜
うん、なんだか、あたしの理想に近いメロディラインをしてる。これは…良いじゃん。
♪〜〜〜〜〜♪〜〜〜〜〜〜♪〜〜
「どう?」
「えっ?…あ、ごめんごめん」
おおっと、曲に聞き入りすぎて、少し彼の存在を忘れかけていた。
「これいいね!あたし、ちょっと気に入っちゃったかも。じゃあ、発表するのこれにしよっか?……えっと、ごめん、名前はなんて言うんだっけ?」
「え?あぁ、オレの名前?木下直哉━━━━━……………
ピピピピ
ん……?
ピピピピ! ピピピピ!! ピピピピ!!! ピピピピ!!!! ピピピ…ガチャッ!
智美はけたたましく鳴り響く目覚まし時計のスイッチを切ると、カーテンの隙間から差し込む光が顔に当たって目が眩み、思わず目をギュっとつむった。
「う〜ん………夢……………か…」
武道館ライブ当日の朝…智美が見た夢は、直哉と出逢った時の記憶だった。
不思議な夢だった。思い返してみると、一言一句、その時思った気持ちまでがすごいリアルで、もしかしたら記憶より鮮明な夢だったかもしれない。なんだか、タイムスリップして実際にその世界にいたような、そんな感じを起こさせる程リアルな夢だった。
「…………ふふ」
夢ではあったけれど、智美は久し振りに直哉の隣にいたという感覚を感じたことで、懐かしさで心が温かくなり、少し、笑った。
なんだか、今もまだ隣に彼がいるような、変なぬくもりを感じる。
智美は時計に目を向けた。今、9時50分。
えっと…11時にロビー集合だったよね………よしっ!!がんばれ智美!
3月26日 PM5:53 伊豆総合病院・外科病棟318号室
窓の外を見ると、遠くの方に満開の桜の木が一本だけ見えた。
もうあれから…ちょうど明日で一年か…去年はな、直哉のことで頭がいっぱいで、桜なんて全然気にしなかったな……そろそろ時間か…
直哉の父親は、病室にあるCDラジカセのチューニングのつまみを回し、TOMOMIの武道館ライブが放送されるFM局に電波を合わせた。
「ガガッ………で……の後6時からは、全国初!TOMOMI武道館ライブ生放送ですよーー!聞き逃すな!!その前に、一旦CM!………キッコーマンの本だしは…」
「いよいよ、始まりますね」
直哉の母は、そう父に言った。
「あぁ、そうだな。…しっかり聴けよ直哉。お前の彼女の晴れ舞台だぞ」
父はそう言うと、しっかりと武道館ライブのチケットを直哉の手に握らせた。
キーンコーンカーンコーン…キーンコーンカーンコーン…
「Oh…キョウノコウギワコレデfinishデス。ミナサン、See you next week. Have a good weekend.」
英語講師のロバートから出された宿題とは、隣の人と協力して英語の曲を英語で紹介するというものだった。その授業の時、たまたま隣の席にいた人は、まだ一度も会話をしたことのない、よく日焼けした長身の男の子だった。
「……………………………………」
二人の間に、初対面特有の重い沈黙が流れる。
「あ……ねぇ、なんか洋楽のCDとか持ってる?」
その男の子が、二人の間に漂う重い空気を切り裂くように、あたしに話しかけてきた。
「え?…………あ、いや………持ってないなぁ…」
あたしは、いかにもそっけない感じで言葉を返した。
どうせなら、こういう宿題は仲の良い女友達と組みたかった。
宿題という共通の目的のために、一時的に話すようにはなるが、まだお互いが完全な友達という関係になる前にその宿題が終わってしまえば、その後、二人が会話をする必要性は薄まる。その二人が男女なら尚更だ。二人の関係は友達とは言いきれないギクシャクした状態が続き、その後、大学内で顔を合わせるとなぜか気まずい雰囲気になってしまう。
あたしは、そういうのが苦手だ。
「じゃあさ、洋楽じゃあないんだけど、オレ今ちょうど英語で歌ってる歌手のCD一枚持ってるんだけどさ、これにしない?」
「え?」
その男の子は、カバンの中をゴソゴソとあさって、中から一枚のCDを取り出し、あたしに差し出した。
え…えと?…える、どっと、えー、どっと、スカッシュ?……?エルエースカッシュ?ロサンゼルススカッシュ?…なんて読むんだこれ?
あたしはL.A.SQUASHのa bottle of worldsというCDをその男の子から受け取った…が、歌手名がなんと読むのかいまいちよく分からない。それにしても、このCD…ジャケットがかっこよく見せようとしたのか、非常にこっている。うん、確かにジャケットはかっこいい。なんか洋楽の雰囲気を感じる。
「へぇ…これ洋楽じゃないんだ?」
あたしは彼に訊いた。
「うん、それ日本のインディーズのバンドなんだけどさ、オレ結構好きなんだ。聴いてみてよ」
彼は自信満々に微笑みながらそう答えた。
「え?あ、うん……」
あぁ…インディーズかぁ。通りで知らないわけだ。たまに良いのはあるけど、結構はずれが多いんだよね…。ま、別に宿題だからなんでもいいんだけど。
さっきまでしていたこの英語の講義は、パソコン教室で行われているため、今、自分の目の前にはヘッドホン付属のパソコンがある。
あたしはCDをパソコンにセットし、ヘッドホンを頭に掛け、画面上の再生ボタンをクリックした。
♪so I say~ can you listen to her pain voice~♪
お?
♪so I say ~ can you do something to help for her~♪
おお。中々良いかも。
ヘッドホンから流れてきたメロディは、とても澄んだ声をしている女性ボーカルと音楽理論に捕らわれていない特徴のあるテンポが印象的な曲で、聴いていて気持ちが良い唄だった。
♪〜〜〜〜〜♪〜〜〜〜〜〜♪〜〜
うん、なんだか、あたしの理想に近いメロディラインをしてる。これは…良いじゃん。
♪〜〜〜〜〜♪〜〜〜〜〜〜♪〜〜
「どう?」
「えっ?…あ、ごめんごめん」
おおっと、曲に聞き入りすぎて、少し彼の存在を忘れかけていた。
「これいいね!あたし、ちょっと気に入っちゃったかも。じゃあ、発表するのこれにしよっか?……えっと、ごめん、名前はなんて言うんだっけ?」
「え?あぁ、オレの名前?木下直哉━━━━━……………
ピピピピ
ん……?
ピピピピ! ピピピピ!! ピピピピ!!! ピピピピ!!!! ピピピ…ガチャッ!
智美はけたたましく鳴り響く目覚まし時計のスイッチを切ると、カーテンの隙間から差し込む光が顔に当たって目が眩み、思わず目をギュっとつむった。
「う〜ん………夢……………か…」
武道館ライブ当日の朝…智美が見た夢は、直哉と出逢った時の記憶だった。
不思議な夢だった。思い返してみると、一言一句、その時思った気持ちまでがすごいリアルで、もしかしたら記憶より鮮明な夢だったかもしれない。なんだか、タイムスリップして実際にその世界にいたような、そんな感じを起こさせる程リアルな夢だった。
「…………ふふ」
夢ではあったけれど、智美は久し振りに直哉の隣にいたという感覚を感じたことで、懐かしさで心が温かくなり、少し、笑った。
なんだか、今もまだ隣に彼がいるような、変なぬくもりを感じる。
智美は時計に目を向けた。今、9時50分。
えっと…11時にロビー集合だったよね………よしっ!!がんばれ智美!
3月26日 PM5:53 伊豆総合病院・外科病棟318号室
窓の外を見ると、遠くの方に満開の桜の木が一本だけ見えた。
もうあれから…ちょうど明日で一年か…去年はな、直哉のことで頭がいっぱいで、桜なんて全然気にしなかったな……そろそろ時間か…
直哉の父親は、病室にあるCDラジカセのチューニングのつまみを回し、TOMOMIの武道館ライブが放送されるFM局に電波を合わせた。
「ガガッ………で……の後6時からは、全国初!TOMOMI武道館ライブ生放送ですよーー!聞き逃すな!!その前に、一旦CM!………キッコーマンの本だしは…」
「いよいよ、始まりますね」
直哉の母は、そう父に言った。
「あぁ、そうだな。…しっかり聴けよ直哉。お前の彼女の晴れ舞台だぞ」
父はそう言うと、しっかりと武道館ライブのチケットを直哉の手に握らせた。
#39 チケット
- 2008-07-01 (Tue)
- 小説 神様のロトリー
「三島―、三島です。2番腺ホームに到着の新幹線は本日最終のこだま・名古屋行きです。お降りのお客様はお忘れ物のないようご注意ください。また、ご乗車のお客様は乗り遅れのないように━……」
智美は三島駅のホームと地下通路を繋ぐ階段を降り、改札を抜けた後、南口バスロータリーにあるタクシー乗り場へと向かった。
時間はすでに午後の11時を過ぎていて、駅前に人影はほとんどなかったが、タクシー乗り場には帰路へと着くサラリーマン風の男性が3人並んでいて、智美はその列の最後尾に並んだ。
並んだ時点ではタクシーは一台もいなかったが、近くの信号が青になったのだろう、タクシー数台が列になって一気にタクシー乗り場へと流れ込んできた。
智美はその列の4台目に乗り込み、運転手に「伊豆総合病院までお願いします」と言った。
運転手は小さな声で「はい、分かりました」と智美に一言だけ言葉を返した。
ここから病院まではだいたい40分…どうしようか…よし、少し仮眠しよう。
智美はタクシーが駅前の商店街を抜けるのも待たずに、静かにその目を閉じた。
あの事故から一年もの時間が流れ、また、季節は桜の花が咲き乱れる頃を迎えた。
梅雨のジメジメした感じとか
真夏の日差しの強さとか
紅葉の色鮮やかな景色とか
神奈川に降ったすぐに融けてしまう雪とか
直哉と二人で感じたかった様々な季節のイベントは次々と無常に通り過ぎ、そして、一周してしまった。
あたしはこの一年もの間、一人でひたすら突っ走ってきた。時々、急に心がツラくなる時もあったけれど、なぜかその時は見えない何かがあたしの心を静かに癒してくれた。
プロデューサーの石川さんによるPR活動の助けもあって、ファーストシングルはオリコンランキング8位。
セカンドシングルはオリコンランキング3位。
そして、ファーストアルバムはオリコンランキング1位を獲得し、60万枚を売り上げるヒットとなった。
ひたすら曲の製作と、レコーディングに明け暮れた一年間が終わり、智美は歌手2年目を迎えようとしていた。
ついに、今年からは全国ツアーが始まる。
そして、今、智美は一年前にあの山で交わした小さな約束を果たすために、直哉のもとへと向かっていた。
「……さん!お客さん!起きてください。着きましたよ!」
「ん………」
智美が目を開けると、すでにタクシーは病院の正面玄関の前に着いていた。
「…すみませんが、少しここで待っていただけますか?10〜20分程で戻ってきますので」
「はい、大丈夫ですよ!あなたのことは同僚から聞いていますんで。心配せずに行ってきて下さい」
タクシーの運転手は、微笑みながら優しい口調でそう智美に言った。
あ、そうか。どうやら、一ヶ月に3〜4度この路線を決まって深夜に使うので、あたしのことを歌手だと知っているのかどうかは分からないが、噂がこの地域のタクシーの同業者たちに広まっていたようだ。
「…すみません。ありがとうございます。では…」
智美はタクシーを降り、病院の中へと入っていった。
疾うに病院の消灯時間は過ぎている。
薄暗がりの病院の廊下を進み、智美はエレベーターに乗り、直哉のいる階に降りた。
エレベーター正面にあるナースセンターには、夜勤当直で、すでに顔なじみになっている看護士の方が2名いた。
「こんばんは」
智美は軽く頭を下げ、小声でそう言った。
「あ、こんばんは、清田さん。毎回毎回言ってますけど、くれぐれもお静かにお願いしますね」
「はい」
智美は看護士が取り出した面会者名簿に名前を書き、また薄暗い廊下を、足音を立てずに静かに進み始めた。
廊下の左右にある病室から聞こえてくる患者さんたちの寝息やいびきの間を通り抜け、智美は直哉の病室のドアを静かに開けた。
そこで待っていたのは、いつもの穏やかな寝顔をしている直哉だ。
「…こんばんは、直哉」
智美は小さな声でそう言うと、直哉のベッドの隣にある椅子に座り、直哉の右手をそっと握った。
直哉…あたし、明日からついに全国ツアーだよ…あー、さすがにちょっと緊張するなぁ………リハーサルとか、音あわせとかがね、なんか、これでもか!ってくらいにやんなきゃいけなくてさ、もうホントくたくただよ…今日もさ、明日本番だからゆるめにするのかな?なんて思ってたらさ、全然そんな事なくて、たぶん…今日が一番しんどかったかもね…へへ、あたしエラいでしょ?…………一年前の今頃はまだ…あたしたちの未来がこうなるだなんて、ちっとも考えてなかったよね……ねぇ直哉、絶対目が覚めたらびっくりするよ、このあたしが、まさかの有名人の仲間入りになってるんだから。この前もね、街中で知らない人に言われたんだ、「頑張ってください」って。あれは…嬉しかったなぁ。なんか、応援してくれる人がいるって事はさ、すごい心強くて、またこれから頑張ろうって気を起こさせてくれるんだ。直哉も、色んな人から応援してもらってるんだから、みんなの気持ちを無駄にしちゃ駄目だよ。
智美はバッグの中からチケットを取り出し、それを直哉の手に握らせた。
一年前、あの山で…直哉言ってたよね…「もし智美が武道館でライブをするときは、一番良い席のチケットちょうだいね」って。あの約束…ちゃんと忘れてないよ。最前列のど真ん中…大変だったんだからね手に入れるの…石川さんにお願いして、ちょっとズルしちゃった。はは。でもいいよね。何しろ一年前からの予約席だったんだから。明日は…一番あたしから近い席で、あたしの曲を聴かせてあげるね……レコード会社の人がさ、みんな本当に良い人で、あたしの人生最大のわがままを聞いてくれたんだ。なんか……初めてらしいよ、武道館ライブのラジオ放送って。なんか著作権だかなんだか色々あってさ、社長は最初、絶対無理だって言ってたんだけど、石川さんが説得したりスポンサー探してくれたりしてくれてさ。ホント感謝しなくちゃ……明日、楽しみにしててね。直哉に届くように、あたし、がんばって唄うよ。
智美は、チケットを握り締める直哉の手をその上からギュっと強く握り締め、そして、病室を後にした。
智美は三島駅のホームと地下通路を繋ぐ階段を降り、改札を抜けた後、南口バスロータリーにあるタクシー乗り場へと向かった。
時間はすでに午後の11時を過ぎていて、駅前に人影はほとんどなかったが、タクシー乗り場には帰路へと着くサラリーマン風の男性が3人並んでいて、智美はその列の最後尾に並んだ。
並んだ時点ではタクシーは一台もいなかったが、近くの信号が青になったのだろう、タクシー数台が列になって一気にタクシー乗り場へと流れ込んできた。
智美はその列の4台目に乗り込み、運転手に「伊豆総合病院までお願いします」と言った。
運転手は小さな声で「はい、分かりました」と智美に一言だけ言葉を返した。
ここから病院まではだいたい40分…どうしようか…よし、少し仮眠しよう。
智美はタクシーが駅前の商店街を抜けるのも待たずに、静かにその目を閉じた。
あの事故から一年もの時間が流れ、また、季節は桜の花が咲き乱れる頃を迎えた。
梅雨のジメジメした感じとか
真夏の日差しの強さとか
紅葉の色鮮やかな景色とか
神奈川に降ったすぐに融けてしまう雪とか
直哉と二人で感じたかった様々な季節のイベントは次々と無常に通り過ぎ、そして、一周してしまった。
あたしはこの一年もの間、一人でひたすら突っ走ってきた。時々、急に心がツラくなる時もあったけれど、なぜかその時は見えない何かがあたしの心を静かに癒してくれた。
プロデューサーの石川さんによるPR活動の助けもあって、ファーストシングルはオリコンランキング8位。
セカンドシングルはオリコンランキング3位。
そして、ファーストアルバムはオリコンランキング1位を獲得し、60万枚を売り上げるヒットとなった。
ひたすら曲の製作と、レコーディングに明け暮れた一年間が終わり、智美は歌手2年目を迎えようとしていた。
ついに、今年からは全国ツアーが始まる。
そして、今、智美は一年前にあの山で交わした小さな約束を果たすために、直哉のもとへと向かっていた。
「……さん!お客さん!起きてください。着きましたよ!」
「ん………」
智美が目を開けると、すでにタクシーは病院の正面玄関の前に着いていた。
「…すみませんが、少しここで待っていただけますか?10〜20分程で戻ってきますので」
「はい、大丈夫ですよ!あなたのことは同僚から聞いていますんで。心配せずに行ってきて下さい」
タクシーの運転手は、微笑みながら優しい口調でそう智美に言った。
あ、そうか。どうやら、一ヶ月に3〜4度この路線を決まって深夜に使うので、あたしのことを歌手だと知っているのかどうかは分からないが、噂がこの地域のタクシーの同業者たちに広まっていたようだ。
「…すみません。ありがとうございます。では…」
智美はタクシーを降り、病院の中へと入っていった。
疾うに病院の消灯時間は過ぎている。
薄暗がりの病院の廊下を進み、智美はエレベーターに乗り、直哉のいる階に降りた。
エレベーター正面にあるナースセンターには、夜勤当直で、すでに顔なじみになっている看護士の方が2名いた。
「こんばんは」
智美は軽く頭を下げ、小声でそう言った。
「あ、こんばんは、清田さん。毎回毎回言ってますけど、くれぐれもお静かにお願いしますね」
「はい」
智美は看護士が取り出した面会者名簿に名前を書き、また薄暗い廊下を、足音を立てずに静かに進み始めた。
廊下の左右にある病室から聞こえてくる患者さんたちの寝息やいびきの間を通り抜け、智美は直哉の病室のドアを静かに開けた。
そこで待っていたのは、いつもの穏やかな寝顔をしている直哉だ。
「…こんばんは、直哉」
智美は小さな声でそう言うと、直哉のベッドの隣にある椅子に座り、直哉の右手をそっと握った。
直哉…あたし、明日からついに全国ツアーだよ…あー、さすがにちょっと緊張するなぁ………リハーサルとか、音あわせとかがね、なんか、これでもか!ってくらいにやんなきゃいけなくてさ、もうホントくたくただよ…今日もさ、明日本番だからゆるめにするのかな?なんて思ってたらさ、全然そんな事なくて、たぶん…今日が一番しんどかったかもね…へへ、あたしエラいでしょ?…………一年前の今頃はまだ…あたしたちの未来がこうなるだなんて、ちっとも考えてなかったよね……ねぇ直哉、絶対目が覚めたらびっくりするよ、このあたしが、まさかの有名人の仲間入りになってるんだから。この前もね、街中で知らない人に言われたんだ、「頑張ってください」って。あれは…嬉しかったなぁ。なんか、応援してくれる人がいるって事はさ、すごい心強くて、またこれから頑張ろうって気を起こさせてくれるんだ。直哉も、色んな人から応援してもらってるんだから、みんなの気持ちを無駄にしちゃ駄目だよ。
智美はバッグの中からチケットを取り出し、それを直哉の手に握らせた。
一年前、あの山で…直哉言ってたよね…「もし智美が武道館でライブをするときは、一番良い席のチケットちょうだいね」って。あの約束…ちゃんと忘れてないよ。最前列のど真ん中…大変だったんだからね手に入れるの…石川さんにお願いして、ちょっとズルしちゃった。はは。でもいいよね。何しろ一年前からの予約席だったんだから。明日は…一番あたしから近い席で、あたしの曲を聴かせてあげるね……レコード会社の人がさ、みんな本当に良い人で、あたしの人生最大のわがままを聞いてくれたんだ。なんか……初めてらしいよ、武道館ライブのラジオ放送って。なんか著作権だかなんだか色々あってさ、社長は最初、絶対無理だって言ってたんだけど、石川さんが説得したりスポンサー探してくれたりしてくれてさ。ホント感謝しなくちゃ……明日、楽しみにしててね。直哉に届くように、あたし、がんばって唄うよ。
智美は、チケットを握り締める直哉の手をその上からギュっと強く握り締め、そして、病室を後にした。
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