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200805

#31 白い鳥

目が隠れるほどキャップを深くかぶっていて、よく顔は見えないけれど、この人が放っているオーラとか雰囲気とかは、絶対に忘れない。
そして、その人の顔の下半分、鼻から顎の部分を見て、智美は確信した。

持田さんが来た!

え!?ちょ、っちょぉ!!??ななな、なんで!??

持田は少しニコっと微笑むと、病室の中に入り、静かにドアを閉めた。

「こんにちは、清田さん」

あぁぁぁ、間違いない本物の持田さんの声だ。
やばい、やばい、やばい、え、ちょ、どしたらいいの?
あわわわわ。そういえば、あたしスッピン!
と、とりあえず返事しないとっ!

「あ、えと、こんにちハ!」
あわてて言ったためか、最後の「は」の時に声が裏返ってしまった。

「ふふっ!」
そう持田はすこし笑うと、かぶっていたキャップを取り、ゆっくりと智美がいるベッドへと近づいた。
持田は右手に大きなアコースティックギターのギターケースを持っていた。なぜだろう、これからどこかでライブでもあるのだろうか?もしくは、その帰り?

「体の方はどう?」
優しい口調で、そう持田は智美に問いかけた。
「あ、はい!もう、大丈夫です。はい!あ、て、ていうか、椅子、どうぞ、座ってください」
智美はそう言うと、右手を必死に伸ばしてベッドの横に置かれていた椅子を持田の足元へと動かした。
「あ、ごめんね、ありがと」
持田は持っていたギターケースをゆっくり床に下ろし、静かに椅子に座った。

「心配したよ、清田さんが事故に遭ったって聞いてさ。でも良かった。あまり酷い怪我ではないみたいで。早く来れなくてごめんね。今ツアー中でさ、全然、時間が取れなくて」
「あーいえいえ、そんな。まさか持田さんが来てくれるだなんて、思ってませんでしたから。来ていただいただけで、ホント嬉しいです」
「実はね、今日もこれから名古屋に行かなきゃいけなくて、あんまり時間がなくて、せめてこれだけでも渡せたらって思って来たんだ」
持田はそう言うと、持ってきたギターケースを開けて、中から一本のアコースティックギターを取りだした。

「え?え!?」
智美は目を丸くした。

「…大体の話は電話で若松さんから聞きました。事故で清田さんのギター…ネックが折れちゃったんだってね。清田さんに元気になってほしくてさ、このギターどうかな?」

あ、そっか…そういえばギターは壊れてたってお父さんが言ってたっけ…そんな事、すっかり忘れてた…………じゃなくて、え!?なに!?こ、こ、こ、このギターをあたしにってこと!?

智美は持田が取り出したギターを見た。
表面には赤い花と白い鳥が描かれており、とても美しい。そして、ヘッドストックに描かれたGIBSONという文字。以前、街の楽器屋であたしはこのギターを見たことがある。そうだ、こんなギター欲しいなぁってつぶやいていたけれど、高くて手が出せなかったあのギター、ギブソンのハミングバードだ!確か値段は40万以上!!こ、こ、こ、これを…あ、あ、あたし…にぃ!?

「あ、あの……スミマセン、これを…あたしに…ってことですか?」
智美は恐る恐る持田に聞き直した。

「うん、お見舞いの品としてね。あたしがデビューした頃に買ったモノだから、もう10年位経ってるけど、傷も全然ないし、まだまだ使えるよ」
持田はニコっと微笑みながらそう答えた。

確かに喉から手が出るほど欲しいギターだけれど、お見舞いの品だからと言えども、まだまだ使えるよと言えども、あたしはこのギターの価値を知っている。それに、もしかしたら持田さんにとって何か特別な想いが込められたギターなのかもしれないし、そう簡単にいただくわけにはいかない。

「そ、そんな…お気持ちは嬉しいですけど…あの、あたしこのギター知ってます…こんな高価なギター……いただくわけには…」

智美が持田の顔を見ると、持田は自らが抱えるギターを見つめていた。そして、持田は静かに口を開いた。
「…実はね…あたしたぶん、まだ公表はしてないけど歌手業は今年いっぱいで引退することになると思うんだ」
「え!?」
持田の突然の話に、智美は驚いた。

「だからね、このギターは新しい歌い手の所に置かせてあげたほうが、その方が喜ぶと思うんだ。クローゼットの奥で埃をかぶせたままにしてたら、かわいそうだし。だから、清田さんにもらって欲しいんだ」

「………………………」
智美は言葉が出てこない。
持田の口調から、智美はこのギターが持田にとって想いがこもったギターだということを悟った。
そんな大切なギターを、本当にあたしがいただいていいのだろうか?

「そんなわけで、遠慮しないでさ、これでギター弾いてさ、元気だしてよ」
「で、でも……でも…」
「あっ!ヤバい、もう時間だ!行かなきゃ!んじゃ、このギターはケースに入れてそこの壁に掛けとくから、周りの迷惑にならない程度に、じゃんじゃん弾いてね」
持田はそう言うと、いそいそと椅子を元にあった場所に動かし、キャップをかぶって帰る仕度をはじめた。
持田がギターをケースに入れて壁に掛け、帰るためにドアに向かって歩き出したとき智美が口を開いた。
「どうして、そんな私に優しくしてくれるんですか?」

その言葉を聞いた持田は立ち止まり、少し考えた後、優しい口調で答えた。
「んー…たぶんね、あたしは、清田さんの歌手としての先輩であると同時に、歌手・清田智美の一人のファンなんだ。ファンなんだから、応援するのは当たり前でしょ?」

「…持田さん………………」
「んじゃ清田さん、マネージャーがね、一階で首を長くして待ってるんだ。ホントもう行かなきゃ。じゃね〜!」
「…あ、ちょ、持田さん!」
ガラララララー…ガチャ
持田は扉を閉めて、帰っていってしまった。

……お礼…言えなかった………




「あ、やっと来た!ほら、早く行かないとヤバイですよ!」
「ごめんなさい前島(マネージャー)さん!すぐ行きましょ」
二人は駆け足で病院のタクシー乗り場へ行き、タクシーに乗った。
「三島駅まで急ぎでお願いします!」
「はい、かしこまりました」

タクシーは駅に向かって走り出し、マネージャーが持田に聞いた。
「ギター…本当によかったんですか?」

「はい、清田さんが持っている方が、あのギターも喜んでくれると思います。あれでいいんです」

「…それで、清田さんの具合はどうでした?」

「…そうですね…体の方はなんとか…でも…」

「やはり…木下直哉君…ですか?」

「…………どちらにしろ、あたしにできる事はあれしかないです。これからは、彼女自身が自分で立ち直らなければ……」

清田さん……つらいよね。本当はつらいんだよね。でも、彼氏は望んでないはずだよ。あなたが悲しい顔をすることは……





持田が帰り、夜がきた。
夕食は吐かないために少しずつ、ゆっくり食べることにした。
そうしたら、なんとか吐くことは回避することがことができた。
普段の3倍、食事に時間が掛かるけれど、これからは少しずつ戻していこう。
智美はそう思った。

就寝時刻前、智美は持田が残していったギターケースを開け、中からギターを取り出した。

すごい綺麗…傷も全然ないし…10年間も使ってたなんて思えない…大切に使ってたのが、伝わってくる…

♪ジャーンジャンジャンジャンジャーンジャン………♪

智美は自分の曲である「ふるさと」のイントロ部分だけを弾いてみた。

………ははは、ちゃんとコード覚えてるし。しかも、なんかちょっと楽しいし。この体の感じ…あたしの体は…ギターを弾きたかったんだ…

ポタッ ポタッ ポタッ

それでも……なんで、なんで泣いちゃうのかなぁ……楽しいはずなのに……なんで悲しいのかな……直哉………

ギターに描かれた綺麗な白い鳥を、智美の涙が濡らしていた。

#30 4月8日

「ビーフリート点滴静注用」というラベルが貼られたビニール製の袋から少し黄色がかった液体が一滴ずつ、下にポツリ、ポツリとたれ落ちる。その液体はプラスチック製の透明な管を通り、智美の左手に刺さっている針を通りぬけ、智美の体内へと入っていく。
それは、今の智美にとって、生きてゆくために必要なこと。

病院食はまずかった。だが、食べなければいけないと強引に口の中に放り込んだのが3月29日。無理をして食べたのがいけなかったのか、智美はすべてを吐き出した。

それからというもの、智美は食べては吐き、食べては吐きを繰り返すようになってしまった。
吐き癖がついてしまったのだ。根本的な原因は精神的なモノだいう事は智美自身分かっていたが、どうすることもできなかった。
口に食べ物を入れた瞬間、喉の奥から何かが駆け上がってくる。必死にその衝動を抑え、口の中の食べ物を胃に送り込んだとしても、食後、気持ち悪くなり自分の個室にあるトイレへ駆け込み、吐き出す。

看護士は気付いていなかった。食後、智身の個室へ皿の乗ったトレイを回収しに向かう時、皿の上にはほとんど食べ残しがないからだ。「この人はちゃんと食事を取っている」と信じて疑わなかった。

退院を数日後に控え、「このまま退院して、あたし平気かな」と少し思ったが、「そんな事どうでもいいか」と智美は考えていた。

未だ、直哉は意識が戻らない。

「ギブスのまま歩くのは危険だから」と、看護士は智美に「この病棟のこの階からは出ないように」と言っていた。だが、それは嘘だ。本当ならすぐにでも松葉杖を使っての歩行訓練をしたほうがよいのだが、もし「自由に外を歩いて、歩く練習をしてね」とでも言えば、間違いなく智美は隣の中央病棟にいる直哉に会いに行く。今、智美には直哉に会いに行かせるのは良くない、それが看護士たちの共通の意見だった。

「もし、直哉に何かがあれば、すぐに報告する」という看護士と智美の約束があるが、入院以来、看護士は何一つ直哉について言ってこない。それは、未だに直哉の病状が変わらない事を意味する。

一度、智美は直哉に会うために外科病棟から抜け出そうとしたが、そのためにはナースセンターの前をどうしても通り抜けなければならなかった。エレベーターはナースセンターの目の前にあったからだ。上手く身を隠しながら通り抜けようとしたが、あっさり、智美はそこで看護士に取り押さえられた。

入院以来、智美は直哉と会っていない。


家族や親戚、友達など、毎日のように智美のもとには見舞い客が訪れた。彼らは智美に少しでも元気になって欲しいとできる限り明るく、優しく振舞い、そして、智美もそれに応えるように明るく振舞った。
だが、彼らは気付いていた。実は智美の心は悲しみで溢れていて、いつも見せるこの智美の明るさは、精一杯の強がりだということを。

見舞いに訪れた智美の友達の中には、家族により智美が歌手になることが決まっていたと知った友達もいたが、その話題を智美の前で話す人はいなかった。
それと同じで、智美が友達の前で「あたし、実は歌手になるんだ!」と言うこともなかった。
今の智美にとって、唄うなんて事はできない。
このまま直哉は目覚めることはないんじゃないかと考えると、歌手になる気などなくなってくる。

直哉がいない世界で唄ったとしても、むなしさがつのるだけ、そう智美は思っていた。



4月8日 PM2:26
智美は窓から外を眺めていた。

今日は土曜日。天気も良く、病院の玄関付近には多くの人が行き交っていた。
見舞い客、検診に来た人、外で散歩をしている人、車椅子に乗っている人、松葉杖をして歩いている人、たくさんの人が様々な目的のために、今、この病院にいる。
一人一人の顔を見て、今この人はどんな目的があって生きているのだろう、などと考えてみる。

病院の中庭では、病院着を着た小さな少年と父親らしき人が、キャッチボールをしていた。
少年は力いっぱい父親に向かってボールを投げたが、そのボールは父親を大きく逸れ、明後日の方角へと飛んでいき、父親はそのボールを取るために走った。だが、二人の顔は満面の笑顔で、とても楽しそうだった。

…あの子がどんな理由で今この病院にいるのか知らないけど、…あたしとどっちが悲しい思いをしてるのかな……なーんてね。そんな事考えたらダメだよね…。

トン トンッ
誰かがドアをノックした。この時間は普段、看護士は来ないから、誰かが来たのかな?と智美は思った。
「はい、どーぞー」

ガララララララ…

「清田さん」
「えぇ!?い、あれ?石川さん!??」
智美のもとに訪れたのは、智美のプロデューサーになる予定の石川だ。
智美は彼がここに現れたことに非常に驚いた。

「あれ!?石川さん、確か、カナダに行っていたはずじゃ……」

彼は、エイヘックスの上司である若松と共にカナダへ長期出張中のはずだった。帰国するのは5月上旬だと、智美がテストを受けた時に彼は言っていた。今日はまだ4月8日だ。

「うん、向こうに着いてすぐに日本から清田さんが交通事故に遭ったって連絡を受けてさ、本当ならすぐにでも日本に引き返したかったんだけど、どうしてもやらなきゃいけない仕事があってね。それで昨日ようやくカタがついたからさ、若松さんの許可をもらって、今日帰ってきたんだ」
石川はそう言うと、持っていた大きなボストンバッグを床に置き、智美のベッドの横にある椅子に座った。
ただの見舞いにならこんなに大きなボストンバッグを持ってくるはずがない。どうやら彼は成田空港から直接ここに来たようだ。

「すぐ本社の方に行かなきゃいけないから、あんまり時間はないんだけど、心配だったからさ」
「あ…本当、心配をお掛けして…すみませんでした」
「いやいや、何言ってんの。清田さんが謝ることじゃないよ」
石川は微笑みながらそう言うと、ボストンバッグのファスナーを開け、ごぞごぞと何かを探し始めた。
「えーとね、手ぶらで来るのも悪いと思ったからね……あ、あった」
石川はボストンバッグの中から、おいしそうなクッキーの絵が描かれた箱を三つ取り出した。
「これね、カナダのメープルクッキーってヤツなんだけど、中々おいしいからさ。家族とか友達とかで分けて」
「…あ、そんな…すみません。ありがとうございます」

智美にクッキーの箱を手渡すと、石川は部屋の中をキョロキョロと見回し、何かを探し始めた。
「? 石川さんどうしたんですか?」
「んー、いや、まだ来てないのかな?あの人は」
「え?あの人?誰のことですか?」
「うん、ちょっとね。…やっぱ忙しいのかなぁあの人…それよりもさ、体のほうはどう?まだ痛む?」
「…あー、いえ、もう痛みはあまり感じないです。それよりもギブスの中がかゆくてかゆくて」
「あ、そうなの?じゃあ、かいてあげようか?」
「…えぇ!?ちょ…そんな…遠慮しときます!」
「ふふ!ゴメンゴメン嘘だよ」
智美は少し微笑んだ。その笑顔を見て、ほんの少しだけ石川は安心した。






「それじゃあ、今日はこれで東京に帰ります」
石川はそう言うと、椅子から立ち上がり、ネクタイをキュっと締めなおした。
「あ、本当に来てくれてありがとうございました。カナダからわざわざ…」
「またまたそんな…ほんと気にしないで。…………清田さん」
「はい?」
「…何があったのか…だいたいの事情は知ってます。………今は…まだ歌手になる事は考えなくていいから…その……唄いたくなったら、その時はいつでも、私に連絡を下さい」
優しく、智美を労るように、石川は言った。

「…………はい…」
本当は、もっと礼を交えた言葉をはっきり言わなきゃいけないと心の中では思っていたのだが、それ以上、智美は言葉が出てこなかった。
なんと言えばいいのか、よく分からなかった。

「それじゃあ、時間が出来次第、また来ます。…清田さん、ゆっくり休んでね」
「………はい。…ありがとうございます」

石川はボストンバッグを肩に担ぎ、静かにドアを閉めた。
彼の足音がゆっくりと遠のいていくのが聞こえる。

ゆっくり休んで…………か…みんなそう言うんだね……まぁ、それしか言えないか…

しーんと静まり返った病室に、智美以外誰もいないはずなのに、見えない誰かに心臓をギュっと握られているようで、苦しい。
そして、その見えない誰かが、すごい憎い。
いくら、「あたしの前から消えろ消えろ」と心の中で叫んでも、離れるどころか時間が過ぎるごとにそれは自分の中でどんどんと存在感を増してゆく。
苦しい。


トン トンッ

また誰かがドアをノックした。まだ石川さんが帰ってから5分も経っていない。忘れ物でもして戻ってきたのだろうか。
「はい。どーぞ」

ガララララララーー

「!!」

思わぬ見舞い客の来訪に、智美は言葉を失った。

今日という日はあたしにとって、きっと忘れられない一日になる、そんな予感がした。

#29 4月1日

「課長、先日のスカイラインで起きた事故の報告書を作りました」
「はい、見せて」
部下は課長に書類を手渡した。

「えーーと、…」
課長は、渡された書類を読み始めた。



(2)事故過程
3月27日
午前8時〜午前11時頃
強盗殺人容疑で指名手配中だった石田克彦(36歳 住所不定)は、静岡県西伊豆町高田にある株式会社同和物産社長・岡本仁の別荘宅に留守を見計らい侵入、ガレージに置かれていたフェラーリ360モデナを盗み逃走。

午後1時40分頃
石田克彦は盗んだフェラーリ360モデナで静岡県上伊豆市の北伊豆スカイラインを走行中、スピード超過(道路に残されたブレーキ痕により、速度は110〜130kmだったものと推測される)によりスリップを起こし、反対車線側のガードレールに接触、横転。反動で道路上を転がり、笠松展望駐車場に駐車していた木下直哉(21歳 大学生 神奈川県小田原市)と清田智美(21歳 大学生 神奈川県小田原市)の男女二名を乗せた日産cubeに衝突。更に衝突により軌道を変えたフェラーリ360モデナは柵を乗り越え、約70m崖の下へ転落。炎上。

午後1時53分
ツーリング中、現場を通りかかった東京都葛飾区会社員・田中正樹により、110番通報。

午後1時55分頃
ガソリンが漏れ出していたため、田中正樹とその会社同僚3名が日産cube車中より木下直哉と清田智美を救出。

午後2時18分
木下直哉と清田智美を救急車へ搬入。搬送。

午後2時41分
救急車が伊豆総合病院に到着。

午後3時10分
崖下へ転落したフェラーリ360モデナの車中より男性1名の遺体を発見。
遺留品により、石田克彦と判明。

午後5時30分
フェラーリ360モデナが盗難車と判明。



(6)負傷者

石田克彦(被疑者) 死亡
○死亡原因
全身の強度の打撲、また重度の火傷により死亡。

木下直哉(被害者) 意識不明の重体
肝臓破裂・胃内出血・右側頭部頭蓋骨陥没骨折・左第八肋骨骨折・左第九肋骨骨折・左第十肋骨骨折・全身の強度の打撲・5箇所の裂傷・7箇所の内出血(判明しているもののみ記載)
全治不明
4月1日13時現在 伊豆総合病院・集中治療室にて治療中

清田智美(被害者) 重症
左足脛骨亀裂骨折・左足打撲・左足2箇所内出血・右側頭部打撲
全治一ヶ月
4月1日13時現在、伊豆総合病院に入院中。来週、退院予定



「なるほど…気の毒にな…。よし、これでいいだろ。しまっておいてくれ」
課長は書類に不備がないことを確認し、部下に返した。

「課長、実はこの事件で二点ほど不思議な点があるのですが」
「ん?なんだ?」
「実は、今日病院で医師に被害者の負傷状況を尋ねた時に言っていたのですが、木下直哉は確かに怪我が酷く、意識不明のままなのですが…その…」
「おう、それで?」
「その…木下直哉はあれほどの怪我を負っておきながら、彼には脊髄や脳にはダメージが一切ないとの事なんです」
「……へぇ、それは不幸中の幸いだな」
「まぁ、そう言えばそうなのですが、医師が言うには、それはありえない事らしいのです」
「…え?どういうことだ?」
「医師が言うには、彼の損傷箇所からいって、一番ダメージを受けているはずの場所が脊髄や脳だったらしいのですが、しかし、そこには一切ダメージが見られないとの事なので、不思議だと言ってました」
「……なるほど…まぁ、奇跡…なんだろうな、それしかないよな。それで?もう一つは?」
「あ、はい。えー、被疑者の石田克彦の口の中からですね、桜の花びらが一枚、検出されました」
「…は?桜の花びら!?」
「はい、今日、県警の鑑識課からそういう連絡が入りました」
「なんだってそんなもんが口の中に…?うーん……まぁ、事故を起こしたときにガラスが割れ、その時に偶然、飛んでいた花びらが口の中に入り込んだ…としか考えられんな。食いモンじゃないし」
「どうしますか?この二つの件も報告書に書いておくべきですか?」
「…………………いや、書かなくていいよ。大したことではない」
「分かりました。では、失礼します」
部下は報告書をしまうため、隣の保管室へと向かった。

口の中に桜の花びら…変なこともあるもんだ。………………ん?待てよ?そういえば、あの時期はまだ、上伊豆スカイライン付近の桜は開花していなかったはず……じゃあ、どういうことだ…?…………ま、いっか。
いずれにせよ、大した事ではない。そう思い、課長はこれ以上考えることを止めた。




同じ頃…伊豆総合病院、外科病棟2階・215号室。

「でも良かったよー。思ったより智美元気でさ」
「へへ、この通り大丈夫だよ。心配かけてごめんね」

入院している智美の下に、ゼミの友達である洋子と隆弘が見舞いにやってきた。
彼らは智美と直哉が所属している香川ゼミの同期で、ラブラブのカップルだ。

「智美にね、早く元気になってもらおうって思ってさ、智美の大好物買って来たよ」
「え?それってもしかして…」
「ふふふ…じゃじゃ〜〜〜ん!!」

洋子はカバンの中から、智美の大好物である都まんじゅうを取り出した。

「あ〜〜〜〜〜!!都まんじゅ〜〜〜!!ありがとーー!」
智美は満面の笑顔でお礼を言った。
「ホント智美このまんじゅう好きだよねー!暇があるとさ、いっつもパクパク食べてるよね」
「えー?そんな事ないよー(嘘)。でもほんとありがとー!病院のご飯がね、ほんっとマズくてさー。マジで食べたかったんですよこれが!!」
「ふふふ。食べ過ぎると太るから、一気に食べないように」
「了解シマシタ」

左足はギブスで固定されているが、それ以外は特に怪我はない。思ったより明るく振舞う智美の様子に、少し洋子は安心した。

「それじゃー智美ちゃん、俺たち今日はこの辺で帰るね。ゆっくり休んで」
「うん、遠いのに来てくれてありがとね」
「俺たちダチだろ?気にすんなよ」
「そうだね」
「じゃあね、智美」
「うん、洋子またね」

お互いに手を振りながら、洋子は静かに病室のドアを閉めた。

「さて…中央病棟の…3階…だった…よね」
「おう…行くか…」

洋子と隆弘は一つ大きく深呼吸をし、外科病棟の隣にある中央病棟の3階へと向かった。

「えっと……あ…」
集中治療室の窓越しに現れたのは、人工呼吸器をつけ、頭に包帯を巻き、そして、何も動かない直哉の姿だった。
木下直哉と書かれたプレートがベッド横の壁に掛けられているが、本当にこの人があの直哉なのかと、疑いたくなる。

「直哉……………………」
隆弘は首を横に振った。自分の目の前に広がる景色を、受け入れたくない。

「……………………うぅ…」
直哉の変わり果てた姿を見て、洋子は泣き出し、その場に座り込んでしまった。
隆弘は洋子の体をそっと抱き起こし、そばにあるベンチにそっと座らせた。

「うううぅ……直哉……なんで……」
洋子は泣き止らない。そっと隆弘は洋子を抱きしめた。

洋子は思った。
智美……さっきのあの態度は…強がり…なんだよね…?…一番ツライのは…あなたのはずでしょう…?



その夜…伊豆総合病院、外科病棟2階・215号室

一人ベッドの中…智美は泣いていた。
「うぅ……うううぅぅ…グスっ……直哉ぁ…なんであたしを…」

泣いても、泣いても、泣いても……涙が止まらない…。

あの日以来、泣かなかった夜はなかった。

智美が洋子たちに見せた態度は、精一杯の強がりだった。

#28 青空の下

その音の正体が一体なんなのか、直哉はすぐに分かった。

智美の顔と助手席の間のわずかな隙間、その向こうにある助手席の窓ガラス越しに見えるのは、黄色いスポーツカーがガードレールに衝突し、横転する、まさにその瞬間。

あーあー、スピードの出しすぎかな…、ありゃ…

空中で一回転をしたそのスポーツカーは、道路上に叩きつけられ、更にまるで石が転がるように転がりはじめた。

!!

直哉は、自分の目を疑った。どんどんと、スポーツカーの姿が大きくなってゆく。まっすぐ、自分たちの車へと、向かっている。

智美は、まだ何が起きているのか分からない。その顔は直哉の方を向いている。

まずい、急いでドアを開け外へ…いや、間に合わない。自分だけなら出れるかもしれないが、智美が出る時間は残されていない。助手席側のドアからは出れない。まっすぐ、そこにスポーツカーが向かっているからだ。

ならば、エンジンを掛け、バックで回避…だめだ、時間が足りない。

その間にも、スポーツカーの姿は、どんどんと大きくなってゆく。もう、その姿は15メートルほどに迫っていた。

このまま当たれば、間違いなく助手席にいる智美が危ない。まだ、智美は自分に危険が迫っていることにすら、気付いていない。

一瞬だけ、直哉は智美の顔を見た。

………………守るしかない。俺が、智美を。

迷っているヒマはない。
おにぎりを持っている智美の右手を、直哉は左手で強引に力いっぱい運転席側に引っ張った。智美の右手からおにぎりはこぼれ落ち、智美の体は運転席のシートにもたれかかった。
続いて直哉は自らの体を上から覆いかぶさるように智美に抱きつき、自分を智美の盾へと化した。
助手席側から来るであろう衝撃に備え、できるだけその間のクッションになれるように直哉は智美に抱きついた。

これでいい…きっと、大丈夫。
直哉は意を決し、目を閉じた。

地面を転がるスポーツカーの音が、どんどん大きくなってくる。
直哉は、智美を強く抱きしめた。

「…直哉?」

グシャッ!!!!!!!!!!!

その瞬間、強烈な衝撃が直哉の全身を襲った。

痛いじゃない、どちらかといえば炎のように熱く、体の細胞が泣き喚く、そんな感覚。

がっ!!!う!!…………ははは、勘弁してくれ、まじで。

衝撃で車が少し浮き上がり、直哉は思わず智美の体を離してしまいそうになったが、エアバックが作動し、上手く直哉はまた智美を強く腕の中へ抱きしめた。

うっすらと黄色のスポーツカーが稜線から下へ落ちてゆくのが見えた。確か、かなりの傾斜だったはず。向こうの運転手は助からないかもな。ホント、とんだ迷惑だ。

少し浮き上がった直哉たちが乗った車は、横転することも無く、そのまま地面へと着地した。だが、その車の助手席側は大きくえぐれ、車体の前半分は原型をとどめてはいなかった。

「う…」
なぜだろう、あまり痛みは感じない。だが、その代わり、体が非常に寒い。ガタガタと震える。
「とも…み…?」
次第に薄れてゆく意識の中、直哉は智美の名前を呼んだ。
だが、返事はない。

「……」
直哉は智美の顔に触れた。
「う…」
良かった。ちゃんと息をしている。衝撃で、気を失っただけなようだ。特に外傷は見当たらない。智美のかわいい顔にも、傷一つついていない。へへ…良かった。

「う…………ゲハッぁ!!」
ボチャボチャ…
直哉は、智美の服の上に、大量の血を吐いてしまった。

あーあ、智美のおにゅーのコート…血で汚しちまった…後で怒られちまうな…ていうか、この血の量…俺平気かな…はは、ちっとまずいかもな…。

直哉は、智美の頬をそっとなでて、そして、唇に触れた。

智美…そういや俺…恥ずかしくてまだ言ってなかった事あったよ…

「…とも…み……あいし……てる」
へへ、ちゃんと守ってやったぜ。感謝しろよ俺に。中々いないよ…こんな彼氏…って、なに言ってんだ俺…ん…なんか…ねみー……へ…へ。

バタッ

意識を失い、直哉は智美の体の上に倒れこんだ。

山に吹く冷たい風が、二人の体を静かに包み込んだ。






チャ チャーチャラチャーチャラチャーチャラチャ…♪
「ん……………?」
ガソリンの匂いが辺りを漂う中、壊れた車の中で音楽が鳴り、その音で智美は意識を取り戻した。だが、まだ頭がボーっとしている。今、自分に置かれている状況が理解できない。

あれ…なにが…?ガソリンの匂い……??臭い……

チャーチャラチャーチャラチャーチャラチャ…♪
あれ…この音楽…どっかで聴いたことが……

チャ チャーチャラチャーチャラチャーチャラチャ…♪
うるさいなぁ…あ、そうだ。この曲、ロッキーのテーマだ。ん?なんか、お腹が重い…

智美は目を開けて自分の腹部の上を見た。そこには、まったく動かない直哉の姿があった。

チャ チャーチャラチャーチャラチャーチャラチャ…♪
「あれ…直哉…?どうしたの…?」

チャ チャーチャラチャーチャラチャーチャラチャ…♪
よく聴くと、その音楽は直哉のポケット…つまり、直哉の携帯電話から聞こえていた。

その瞬間、智美は思い出した。この音楽は、直哉の合格を伝える電話だということを。

智美は必死に直哉の肩を揺さぶった。
「…ねぇ!直哉!!起きてよ!!!合格したんだよ!!起きなきゃ!!」

チャ チャーチャラチャーチャラチャーチャラチャ…♪
「直哉…!!!ねぇ…!!起きてよ…!電話に出ないと…!!」


チャ チャーチャラチャーチャラチャーチャラチャ…♪

痛いほど眩しい青空の下…ロッキーのテーマと智美の声だけが、むなしく空に響いていた。

#27 ぬくもり

「えー、本日は清田智美デビュー決定記念シークレットライブin…えーっと?、…伊豆のどこかの山の上にご来場いただきまして、誠にありがとうございます!なんと、今日が記念すべき初ライブです!」
「わ〜〜〜〜!」
パチパチパチ(拍手)!
「ですがー、さすがに事前の告知なしに加えて、えー、場所が場所なだけに来てくれる方なんて本当にいるのか?なんて思ってたんですが…なんと!心優しい方が一名来てくださいました!」
「わ〜〜〜〜!」
パチパチパチ(拍手)!
「本当にありがとうございます!えー、来てくれて本当に嬉しいです!あなたのお名前は?」
「あ、静岡県富士市から来ました木下直哉と申します!私、昔からあなたのファンなんです!ライブを独り占めできるなんて、もう…感無量です!」
「ふふっ!えー、ではー、私の大切なファンである木下直哉さんのためだけに!…今日は唄おうと思います」
「………お願いします」
直哉は、智美に向かって頭を下げた。

「…………こちらこそ」
微笑みながら、智美も直哉に向かって頭を下げた。

砂利交じりの少ししめった土の上に、お尻が汚れることも気にせずに二人はあぐらをかいて座り、智美の初ライブは始まった。
どうせなら本当のライブのMCっぽくやってみてよ、という直哉の要望で、恥ずかしながらも智美は少しふざけながらMCらしく振舞った。

「へへ、なんかやっぱちょっと恥ずかしいな。…それじゃあ、さっそく一曲目、「ふるさと」唄います」
「………はい」
智美は、自分のギターの絃に触れる左手の感触を一度確かめてから、大きく深呼吸をした。
そして、ゆっくりとギターを弾き始めた。

どこまでも広がる真っ青な空の下、山の一番上にある少し開けた小さなスペースに、アコースティックギターの音と、智美の優しく力強い歌声が響く。
直哉は、ただ、ただ微笑みながら、智美が奏でる音を聴く。

聴いてると、なんだか、優しい気持ちになってくる………知らなかったな、智美に、こんな才能があるなんて。………俺は、もしかしたらまだ、この人の事を完全に知ったワケじゃあないのかもな………。ふふ、こりゃあ、デビューしてから智美は忙しくなりそうだ。………いい曲だ…。

智美が奏でるメロディーは、直哉が思っていた以上に優しく、柔らかく、そしてしっかりとしたメロディーだった。初めて智美が作った曲を聴いて直哉は、感動を覚えつつ、智美のこれからの未来図を頭の中で描いていた。

智美は、最初は少し照れながら唄っていたが、2曲目、3曲目と進むにつれ、本来の歌声を取り戻した。直哉は、ただ静かに、しっかりと聞いてくれていた。優しく微笑みながら。

そして、智美は最後の曲を唄いきった。ギターの音が、静かに消えてゆく。

パチパチパチパチパチパチパチ(拍手)
直哉は智美に拍手を贈った。

「へへ、どうだ?あたしの曲は」
「…うん、正直びびった。なんか、かっこ良かったよ智美」
「えっへん。少しはあたしのこと見直したかな?」
「ふふ、おみそれしました。………ねぇ智美」
「うん?」
「改めて言うよ。………デビューおめでとう!」
「………ありがとう」
感謝の気持ちを込めて、智美はそう答えた。

「ねぇ、もし智美が武道館でライブする時はさ、一番良い席のチケットちょうだいね」
「うん、あげる」

ぐ〜〜〜〜〜〜…

直哉のお腹が鳴った。二人の間に少しの沈黙が流れる。

「……ははは。直哉、お腹空いたの?」
「あー、うん…ちょっとね」
「んじゃ車にもどろっか?おにぎり作って来たんだ」
「おー!さすが智美さん!やっぱりあんた良い奥さんになるよ!…そんじゃ車でメシ食ってから、温泉に行きますかね」
「そうしますかね。それじゃあ、このピックは…と………」

智美は、ギターを弾くときに使ったピックを、二人の間の地面に、そっと埋めた。

「え?智美?」
「んーん、いいんだ。これで。ここが私のね、新しい一歩を踏み出した場所だから。このピックは、ここに埋めておく」
「…そっか。」



二人は手を繋いで、ゆっくりと坂道を降りていった。
互いの手のぬくもりが、なぜか、少し愛おしく感じた。



ガラララー
直哉は智美のギターを車の中へ入れるため、後部座席のドアを開けた。
ギターを後部座席の上に置いた時、智美が直哉に向かって言った。
「ねぇ、ちょっとそこのバッグ取って。中におにぎり入ってるからさ」
「あ、ほーい。よいっ……お?」

直哉は、バッグの上に一枚の大きな桜の花びらが乗っかっているのを見つけた。

あ!この桜の花びら…!

すごい大きくて、深い綺麗なピンク色をしていて、そして、どこか圧迫感のある何かを出している。
どこから見ても、これは、あの時(第二話参照)見た桜の花びらと、まったく同じ。

まさか…でも、なぜ…

だが、今回はあの時のように目が固まったりするようなことはなく、しっかりと体は動く。

パシッ!
反射的に、直哉はその桜の花びらを捕まえるように右手で掴んだ。

「はぁ、はぁ…」
よし、捕まえた…って、あ、あれ?…俺、なんでこんなに息が上がってんだ?…………あ、そうか、昨日あんな夢見たから…

「ん?直哉どうしたの?」
助手席に座った智美が、振り向きながら直哉に言った。

「え?い、いや…大丈夫だよ」
「なんか虫でもいたの?」
「んーん、なんでもないよ。ちょっとね…」

直哉は握られた自らの右の拳をゆっくりと開いた。

…え!?なんで…

確かに、さっき俺は桜の花びらをこの手で握ったはずだ。間違いない。絶対に捕まえたはずなんだ。これは、どういうことだ…?

右手の中には、すでに何もなかった。桜の花びらは、影も形も無く、直哉の手の中で姿を消した。

「直哉?どうしたの?なんかあったの?」
神妙な表情をする直哉を心配したのか、智美が言った。

直哉は首を傾げ、左手で髪の毛をかきむしった。
目の前で起きたことが、現実だったのか幻覚だったのか、それさえも直哉は分からなかった。

今のは幻覚だったのか?ということは、前回のも幻覚だった?いや、二回もこんなことが起きるということは、幻覚ではない?じゃあ、なぜ消えた?…分からない。いったい、なんなんだ??

「直哉!?大丈夫??どうしたの?ねぇ!」
智美は直哉の肩を力強く揺すった。

「…あぁ…智美」
智身の顔を見て、直哉は自分を取り戻した。

「ねえ、いったいどうしたの?」
「え?あぁ……大丈夫、大丈夫。だぶん、お腹が減りすぎてさ、それでちょっとめまいが…。ほら、早く食べよう!もうマジで腹ペコペコだよ」
そう言って、直哉はバッグを智美に手渡した。

「そう…なの?それならいいけどさ。じゃあ…早く食べよっか」
「うん。早く食べよ」

直哉はごまかす事にした。今、自分に起きた事が現実だろうと幻覚だろうと、今はどちらでも構わない。家に帰ってから、また考えればいい事だ。
ただ、今は、それよりも智美と過ごすこの時間を大切にしたかった。

直哉は運転席に戻り、ドアを閉めた。
智美はバッグのファスナーを開けて、ごそごそと何かを探している。
「ふふふ、直哉のためにね、超巨大おにぎり作ってきたんだ。見て驚け。えーーーーと………あれ?どこだ?……あ、あった!じゃ〜〜〜〜ん!!!」

智美がバッグから、直系10cmはあるだろうか、超巨大おにぎりを出した。

「で、でっか!ははははは!!智美、なんだこりゃ(笑)」
「へへへ、すごいでしょ?」

智美は直哉におにぎりを手渡した。

「お、重!!はははは!なんか、砲丸投げのボールみたい(笑)」
「あーーー、そういうこと言うんだ」

智美は直哉からおにぎりを奪い返した。

「あー、ウソですよ智美さん!うそうそ!ありがたくいただかせていただきます!」
「ふふふ、それでいいんだよ。ほら口開けて。食べさせてあげる」

智美はおにぎりに巻かれているサランラップを取り、直哉の口元に近づけた。
「はい、直哉ア〜〜〜〜ンしてー」
「ア〜〜〜〜〜ン」
にやけた顔をしながら、直哉は口を大きく開けた。



キィィィィィィィ!!!!ガッ!!ドンッ!!!!!

突然、聴きなれない大きなニブい音が、二人の耳に轟いた。

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